今回紹介するイヤホン「Astrotec AX-35」は、個人的に少し前から気になっていたイヤホンなのですが、ふとしたきっかけで、国内輸入販売代理店の IC-CONNECT さんから貸出機をお借りでき、じっくり試聴・試用することができたので、レビューしたいと思います。
国内外のオーディオメーカーを影で支えている「Astrotec」
「Astrotec」は、もともとソニーやオーディオテクニカなど大手オーディオメーカーにイヤホンの心臓部ともいえる「ドライバーユニット」を10年以上にわたってOEM/ODM提供している、中国深センの「深圳市宝顺昌声响电子有限公司」が、自社ブランドとして2年前に設立した新しいブランドのようです。
そして、その高い技術力と実績を武器に、「Astrotec」ブランドとして自社ブランドならではコストパフォーマンスの高い製品群を展開しています。
日本国内では IC-CONNECT さんが輸入代理店として、ハイエンド機の AX-60 を筆頭に、1万円前後、5千円前後の価格帯を中心に、8種類ほどの製品が国内で販売されています。
BA+ダイナミックのハイブリッド型イヤホンとしてはコスパが高い
今回試用した AX-35 は、国内実売9千円前後という価格ながら、BA(バランスド・アーマチュア)型ドライバとダイナミック型ドライバーのハイブリッド構成で、剛性感のある金属製のシンプルながらシャープで美しい形状のボディのイヤホンです。
BA型ドライバは、もともと補聴器などに使われていた技術で、ドライバーユニット自体が非常に小さく、特に高音域の繊細な表現を得意としていますが、一般的に低音域はやや不得意なため、この機種では、従来型のダイナミック型ドライバーと組み合わせた「ハイブリッド構成」とすることで、繊細な高音と迫力ある低音を実現しています。
BA+ダイナミックドライバーのハイブリッドイヤホンは、他社からも多く出ていますが、相場は概ね1万円台〜3万円程度するので、1万円未満で買える AX-35 は、非常にコストパフォーマンスが高い機種と言えます。
外観イメージにも似た、シャープでフラットな音
代理店によると200時間程のエージングで変わってくるとのことで、お借りした時点で50時間程使用とのことなので、まずその時点で聴いてみると、やや硬質ながらシャープでフラットな周波数特性を持っていることがわかる音でした。
周波数特性は "AudioCheck.net" の人間の知覚特性を考慮した次のスウィープ音でチェック。
その後数日かけて150時間程度エージングを進めていくと、フラットな特性はそのままに、硬質さが抑えられ滑らかさが出てきました。
エージングには同じく "AudioCheck.net" でダウンロードできる 192kHz/16bit のハイレゾピンクノイズおよびホワイトノイズに加え、超低域のスウィープ音を使用し、ハイレゾDAPでリピート再生して流しっぱなしにしておきました。
- High Definition Audio Test Files → "High Definition White Noise"
- The Ultimate Headphones Test → "Quality" → "Bass Shaker"
最初聴いた感じでは超低域はあまり出ていないように感じましたが、エージング後は低音もしっかり出るようになりました。
全体的に低域から高域まで一様に引き締まった感じで、音場は広く立体感も充分あります。量よりも質のよい上品さがある音で、なかなか好印象です。
また、BA+ダイナミックのハイブリッドドライバであることをほとんど意識しないほど、低域から高域までとても自然に聴こえるのもポイントが高いと思います。
音質の傾向としては、全帯域にわたってタイトでフラットで誇張がないゆえに、曲によっては音の厚みが物足りないと感じることがありかもしれませんが、1960〜70年代の比較的古い音源などでは、音が膨らんだりぼやけることがなく、気持よく聴けるものもありました。
ケーブルはしなやかで悪くないが、断線がちょっと心配
ケーブルは中国メーカー製イヤホンによくある、しなやかでサラッとして引っかかりにくい材質で、リング状に巻いてあるので曲げクセがつきにくくていいのですが、イヤホン側の根元部分がちょっと心もとない感じです。あまりハードに扱うと断線しやすそうな雰囲気はあります。
あと、L/R の表示がケーブル根元の内側に書いてあるので、イヤホンの左右がわかりづらいのはちょっと難点です。もともとがシンプルなデザインなので、印をつけたり、女性ならデコったりするのもいいんじゃないでしょうか。
2タイプのイヤーピースと「Shure掛け」用フックなどが付属
パッケージの中には、下の写真のような缶ケースの中にシリコンイヤーピースのサイズ違いとフォームタイプのイヤーチップ、「Shure掛け」用のケーブルフックが入っていてなかなか豪華です。
カナル型イヤホンとして通常の使用方法でも充分耳にフィットし、タッチノイズもそれほど気にならないのですが、ケーブルをフックに挟み込んで「Shure掛け」にすることで、よりタッチノイズを減らしたり、外れにくくすることができます。
スッキリとした音が好きな人には特にオススメ
もともとは、最近発売された Astrotec GX-50 という機種を買おうと思っていたのですが、AX-35 を試用しているうちに、通常のカナル型でこれだけバランスよく「スッキリした音」が出せるイヤホンというのもなかなか無いので、これは欲しいかもと思い始めました(^^;
シングルBAイヤホンとしては、以前作った Final Audio Design の BAイヤホン組み立てキットを持っており、「ダイナミック型でフラットな音」が出せるイヤホンとしては、先日紹介した muix IX1000 などが気に入っていますが、 そのどちらとも違う音の伸びやかさや空間表現があり、なかなか捨てがたい選択肢です。
音の厚みという点では他に譲りますが、量より質、スッキリした雑味のない音を求める方には特にオススメしたい、天然水のようなイヤホンだと感じました。
気になった方は、是非一度試聴してみることをオススメします。
↑コチラにはe☆イヤホン店員さんのレビューもあります。
尚、IC-CONNECT さんからは他にも機器をいくつかお借りしているので、そちらのレビューも後ほど。