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完全ワイヤレスイヤホンを10機種ほど使ってみてわかったこと 〜メリット・デメリット・謎現象

※この記事は、2021年7月末時点での内容です。

完全ワイヤレスイヤホン」あるいは「TWS (True Wireless Stereo)」とも呼ばれる左右独立分離型のワイヤレスイヤホンは、2016年12月に発売された "Apple AirPods" が事実上の火付け役となって、今もなお進化し続けて続々と新機種が登場している、今一番ホットなオーディオ製品と言えるでしょう。

完全ワイヤレスイヤホンを10機種以上、実際に試してみてわかったこと

個人的には、2018年に初めて購入して以来、これまで約10機種程度の完全ワイヤレスイヤホンを試してきましたが、完全ワイヤレスイヤホンに特有のメリットやデメリットはもちろんのこと、Apple Watch など他の Bluetooth 機器との同時使用時など、特定の条件下でのみ不具合が生じる機種があることもわかってきました。

そこで、これまでに購入して試した機種をもとに、完全ワイヤレスイヤホンの「メリット/デメリット」や「遭遇しそうな現象」の原因や注意点のほか、2021年夏〜冬の時点で個人的に「選ぶ際に着目するポイント」などを、紹介したいと思います。

これまでに購入して試した完全ワイヤレスイヤホン(2021年7月時点)

機種 国内発売日 購入
SOUL ST-XS 2017年10月中旬 2018年4月
Skullcandy Push 2019年3月15日 2019年4月
AVIOT TE-D01g 2019年5月31日 2019年7月
ag TWS03R 2019年12月13日 2020年1月
Shanling MTW100-BA 2020年2月28日 2020年3月
Noble Audio FALCON 2019年10月25日 2020年5月
Cambridge Audio Melomania 1 2019年6月29日 2020年5月
Sony WF-1000XM3 2019年7月13日 2020年5月
Apple AirPods Pro 2019年10月30日 2020年8月
MPOW JAPAN X3 ANC 2020年7月17日 2020年7月
ag TWS04K 2020年5月1日 2020年7月
FiiO UTWS3 (番外) 2021年2月5日 2021年2月

完全ワイヤレスイヤホンは、プロダクトとして成長過渡期の商品ということもあり高級機はあえて避け、普及価格帯となる「1万円前後」の製品を中心に試してきました。そのため、いわゆる「ハイエンド機」は店頭で試聴はしていますが、個人的には購入するほどの価値をあまり見出せていません。

2021年12月の現時点でもやはり「1万円前後」の機種が総合的なバランスがよいのではと個人的には思っています。

完全ワイヤレスイヤホンの「使い勝手」で共通のメリット TOP 5

完全ワイヤレスイヤホンは、従来の有線イヤホンだけでなく、首にかけるタイプのBluetoothイヤホンと比べても、大きなメリットがいくつかあります。
「使い勝手」の面で機種を問わず共通するメリットとして、次のような点が挙げられます。

メリット1:ケースから取り出すだけで自動接続されすぐ使える

ほぼ全ての機種で、一度ペアリングすれば次回からはケースから取り出すだけでスマホなどと自動的に接続されるので、電源ボタンの長押しが必要な他の Bluetooth イヤホンよりも、ケーブルを挿す必要がある有線イヤホンよりもずっと楽です。

メリット2:着けたまま着替えができ、マスク+メガネ時に楽

これは大きなメリットです。ケーブル付きのワイヤレスイヤホンやワイヤレスヘッドホンでは難しい着替えが、完全ワイヤレスイヤホンは着けたままでタートルネックも無問題。

さらに、イヤホンを着けたままマスクの着脱ができるのも大きなメリットです。特にマスクとメガネと有線イヤホンを同時に着けていると、外す順番を間違えると引っかかって絡まって面倒なことになりますが、完全ワイヤレスイヤホンではほぼ完全にストレスフリーです。

女性の場合は、完全ワイヤレスイヤホンを着けたままメイクができますし、音楽やネットラジオなどを聴きながら他のことをするのに最も適しています。

メリット3:音楽や音声を聴くだけでなくヘッドセットとして通話もできる

現在市販されている完全ワイヤレスイヤホンは、ほぼ全てワイヤレスヘッドセットとして通話もできる機能が搭載されています。マイクの性能や通話品質は機種によって大きく差がありますが、ほぼ全ての機種に最低限の機能は備わっています。

オンライン会議などのニーズも増えていることもあり、最近は通話品質の向上を謳った機種も増えてきており、用途によっては音質だけでなく通話性能や機能に着目するのも選ぶ際のポイントになるかもしれません。
例えば、左右どちらでも片耳だけで使用できる機種であれば、運転時の片耳ヘッドセットなどとしても使えます。

メリット4:複数機種あると使い分けられてさらに便利になる

「メリット1」にも関係しますが、「ケースから取り出せばすぐ使える」というのは有線イヤホンを挿したり抜いたりするよりも楽なため、例えば使っている途中でバッテリーが切れそうな時、もう一つ別の完全ワイヤレスイヤホンを持っていれば、すぐに着け替えればOKです。
また、完全ワイヤレスイヤホンは機種によって音質や装着感、落ちにくさが大きく違うので、運動時と集中したい時など、用途によって使い分けもできるため、1台だけでなく複数持っているとさらに便利になります。

メリット5:一度その便利さに慣れると手放せられなくなる

上記のような完全ワイヤレスイヤホンのメリットにより、一度その便利さに慣れてしまうと「イヤホンはもうこれでいいんでは」と思ってしまう人も多いかもしれません。音質も日常使いでは有線イヤホンと比べても遜色ないレベルの機種が多くなってきました。むしろ下手な有線イヤホンより音質の良い機種も多くあります。

完全ワイヤレスイヤホンは、落とすときは落としますし、有線イヤホンも、断線するときは断線します。
メーカーによっては片側落として無くしたりしても、無くした側だけ単体で安く購入できる場合もあり、有線イヤホンを使うとき、しまうときに毎回ケーブルを巻いたりほどいたり、絡まったりする面倒くささやストレスから解放されることを考えると、おそらくメリットがデメリットを上回ります。

完全ワイヤレスイヤホンのよくあるデメリット TOP 5

デメリット1:落ちる

左右が完全に分離独立した「完全ワイヤレスイヤホンの宿命」です。
ケースから出し入れする際や、装着中でも耳にしっかり装着されていなかったり、自分の耳に合わない形のものだったりすると、何かの拍子に落ちます。どんなにメーカーが落ちにくいと謳っていても、落ちるときは落ちます。

しかし、落ちにくい機種の選び方や、イヤーピースを変えてみる等で落ちにくくする方法はあります。

デメリット2:耳に合う/合わないが大きい(→落ちにくさに影響)

ワイヤレスイヤホンは通常のイヤホンと違って、内部にバッテリーや基板、アンテナ、マイクなど必要なものを全て内蔵しているため、必然的にやや大きく重くなりがちです。様々な形状の機種が発売されていますが、耳の穴の大きさや形は人それぞれで

  • ノズルが長すぎたり角度が合わないとに耳に入りきらない
  • イヤーピースだけで支える状態になると不安定に
  • イヤーピースのサイズや形状が耳に合っていないと装着感も音質も安定しない

といったことが、有線イヤホン以上に起こり得ます。
特に装着時に耳から大きく出っ張る状態になる機種では、人混みなどで何かの拍子に当たって落ちる確率も高くなるので、注意が必要です。そのため、形状や大きさが自分の耳にどう収まるのか不安な場合は、できるだけ実機を店頭で試着することをおすすめします。

尚、これも「落ちる」件と同様に、購入後にイヤーピースを変えてみる等で改善する方法はあります。

イヤーピースの重要性

イヤホン全般に言えますが耳へのフィット具合、イヤーピースが耳に合う/合わないによっても音質や装着安定性が大きく変わります。 付属のイヤーピースがしっくり来ない場合は、「完全ワイヤレスイヤホン用」と謳った通常より高さの低いイヤーピースに交換することで、音質も装着安定性も劇的に改善する場合もあります。
AirPods Pro のように、機種によっては専用設計のイヤーピースしか取り付けられないものがあったり、ケースの奥行きが浅い機種では、高さのあるイヤーピースをつけるとケースに収まらなくなることもあるため、注意が必要です。

デメリット3:しばらく使わないでいると、ある日突然勝手に接続してしまう

完全ワイヤレス(TWS)イヤホンをしばらく (1〜数ヵ月) 使わないままでいたり、複数個使っていたりするとよくある現象ですが、ある日突然スマホと勝手に接続してしまうことがあります。

マナーモードにしていないのにスマホの音が突然出なくなってあれ?となって気づくことが多く、iPhoneではヘッドホンマークが出てくるので「TWSのどれかと接続された」とわかりますが、Android スマホやパソコンでは「Bluetooth で何かが繋がっている/繋がっていない」の違いしかシンボル表示がないので、Bluetooth の設定を開くまでそれが TWS なのかそれ以外のBluetoothディバイスなのかわかりません。
ただ、スマホでは多くの場合つながった直後に画面に「音量バー」が表示されるので、その瞬間を見逃さなければTWSかどうかを察知できるかもしれません。

これは、メリットでもある「ケースから取り出すと自動的に接続する」ことに関係していますが、現状ではほとんどの機種は「本体がケースに入っているかどうか/ケースから取り出されたかどうか」を本体側が充電端子を介してケースと電気的につながっているか(通電しているか)どうかで判別しているようで、ケース側のバッテリー切れで本体への通電が途絶えると「本体側がケースから取り出されたと勘違い」した状態になってしまうためです。

TWSをしばらく使わないでいるとある日突然接続してしまう現象

完全ワイヤレスイヤホンは、ケースから取り出されたらすぐに接続できるよう常に待機する必要から、収納時もイヤホン本体側は電源は完全にOFFにはならず、イヤホンが満充電の状態であっても常にごくわずかながらケース側のバッテリーを消費し続けているためではないか?と推測されますが、初めてこの現象に遭遇した時「それは聞いていない」と思うポイントでした。
ほとんどの機種で起きるこの現象について、取扱説明書に書いてあるのを今のところ見たことがありません。

また、これと同じ原理で、本体とケース間の充電端子に汚れなどの接触不良で不意に通電が途切れると、同じように自動接続されてしまいます。

最近では一部の機種で「ケースから取り出した時」ではなく、「ケースのフタを開けた時」に自動接続するものも出てきましたが、完全に電源OFFになる仕組みでない限り、判定のポイントが変わっただけで根本的には同じ問題ははらんでいるので、しばらく使わなくても1〜2ヶ月に1回は時々ケースを充電する必要があります。

尚、常にケースを充電しっぱなしにするとケース側のバッテリーの劣化を早める場合があるので、時々ケースのバッテリーインジケーターを確認して、少なくなっていれば充電する程度がよいでしょう (たいてい忘れますがw

デメリット4:音質の当たりハズレが価格を問わず大きい

登場初期に比べると、音質はかなり改善されていますが、Bluetoothヘッドホン/イヤホンがそうであるように、メーカーや機種によって音質チューニングの個性の違いが大きいのは完全ワイヤレスイヤホンも同じです。

基本的に5千円以下クラスの低価格帯は、低音〜超低音が増強されすぎて、音がぼやけて芯がなかったりするものが大半だと思っておいてよいと思います。主に海外のユーザーの好みに合わせているようですが、機種によっては逆に低音が全く出ないものもあったりと、こればかりは当たりハズレが大きすぎるので、購入した方のレビューを参考にしたり、可能であれば店頭での試聴をおすすめします。

1万円クラスの機種になると、スマホアプリで音質を調節できるものが増えてきますが、安価な機器は音質は割り切って使うのもアリでしょう。

また、アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能付きの機種ではノイズキャンセリングON」の時と「ノイズキャンセリングOFF」の時とで、音質が大きく違うものも多くあります。これはノイズキャンセリングシステムの原理上避けられないもので、比較的最近の機種ではその差が低減されていますが、メーカーによるイヤホン本体内蔵ソフトウェア(ファームウェア)の改良によって、改善されるケースもありました。

デメリット5:内蔵バッテリーの寿命が製品の寿命

完全ワイヤレスイヤホンは左右それぞれにバッテリーを内蔵していますが、基本的にバッテリーの交換は不可能です。

もともと小型化のためにバッテリー自体の容量も小さいので、使用頻度や使い方にもよりますが、1〜3年で「あれ?もうバッテリー切れ?」という状態になる機種もあり、長く使っているうちに徐々に使用可能時間が短くなっていくのは避けられません。

ただし、完全ワイヤレスイヤホンは今も尚「日進月歩」で、数年前の機種では連続再生時間が3〜5時間程度だったのが、今では12時間近く使える機種もあり、当初高級機に搭載されていた「アクティブ・ノイズ・キャンセリング (ANC)」も今は1万円以下の機種にも搭載されるなど、数年で買い替える前提で考えた方がよいのでは?という事情もあるため、バッテリーがへたってきたら「予備機」に格下げして、新たにその時点の最新機種に乗り換えるのが、スマートではないですが当面はスマートな使い方になるのではと思います。

先に、「1万円前後の機種が総合的なバランスがよい」と書いたのはこうした事情もあり、価格と使い勝手や音質が必ずしも比例しない場合も多々あり、常に最先端や最高性能を追い求めるガジェットマニアでなければ、それくらいの機種の方が一番メリットを実感しやすく、デメリットによるダメージも抑えられるという点で、オススメしやすいという面があります。

完全ワイヤレスイヤホンには「Apple Watch と相性の悪い機種」が結構ある

全く予想しなかった現象ですが、少なくとも Apple Watch を使っていると不具合が生じる機種がいくつかありました。
つまり、スマートウォッチなど他の Bluetooth 機器と何らかの理由で通信が干渉する機種があります。

謎現象 1:Sony WF-1000XM3

ソニー ワイヤレスノイズキャンセリングイヤホン WF-1000XM3 : 完全ワイヤレス/ Amazon Alexa搭載 /Bluetooth/ハイレゾ相当 最大6時間連続再生 2019年モデル / マイク付き 360 Reality Audio認定モデル ブラック WF-1000XM3 BM

ソニーのアクティブノイズキャンリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンとして、後継の WF-1000XM4 が2021年に発売されるまであらゆるところに広告が出ていた、今でも有名なこの機種。

Apple Watch をペアリングした iPhone で使った時のみ、電波状況に関係なく約1分間隔で音が途切れる」

という現象が発生しました。Apple Watch をペアリングしていない別の iPhone や他の Android 端末、Macに接続した場合は全く発生しません。アクティブノイズキャンセリング機能がいくら優れていても、これでは落ち着いて音楽も聴いていられないので困りました。

当初は Apple Watch が原因とは全く気付かず、ネットで似た事例がないかと思って探してみたら、価格.com にビンゴ!なコメントが。

試しに Apple WatchBluetoothOFF にすると見事に現象が解消。しかしそれでは Apple Watch が使えない…

その時点で保有していた他の完全ワイヤレスイヤホンでは一切経験のない現象だったので、WF-1000XM3 は多機能がゆえに、おそらくApple Watch が使う Bluetooth 通信のうち BLE(Bluetooh Low Energy) で何らかの通信を行なっているのが干渉しているのではないか?と "nRF Connect" 等のBLE デバッグ用アプリ等で調べてみましたが、BLE の知識もほとんどない状態でツールで得られる断片的な情報から検索しても歯が立たず…

nRF Connect for Mobile

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  • Nordic Semiconductor ASA
  • ユーティリティ
  • 無料

ちなみに環境は、「Apple Watch Series 3 + iPhone SE 2nd gen. + WF-1000XM3」という組み合わせですが、同じ「Apple WatchiPhone + WF-1000XM3」の組み合わせで使っている方でも、そういった現象は経験していないという方もいらっしゃったので、何か他にも環境的な条件があるのかもしれません。未だに謎です。

尚、その後 iOS/watchOS のバージョンアップの度に毎回確認しましたが特に変わらず、WF-1000XM3 本体のファームウェアアップデートも何度かありましたが、2020年9月30日付のアップデートで若干途切れ方が短く軽減されたかな?と思っていたら、2021年4月15日付のアップデートでこれまでになく大きくブツッと頻度も増して途切れるようになり、最終的に音質面でも不満があったので WF-1000XM3 の使用は諦めました

Sony WF-1000XM3 は、他にも iPhone との組み合わせで使っていると、 「ケースから取り出して、自動接続されるまで異様に時間がかかる」 という現象もあり、何かとストレスの多い機種でした。
Sony は自社の Android スマートフォン Xperia シリーズを出しているので、ソニーの完全ワイヤレスイヤホンは、Android 端末で使うのが前提と思っておいた方がよいのかもしれません。

謎現象 2:Mpow X3 ANC (Bluetooth SoC "BES2300" 採用機種全般?)

【国内正規品 MPOW X3 ANC 完全ワイヤレス 左右独立型 ノイズキャンセリング搭載 イヤホン Bluetooth5.0 マイク内蔵 マイク付き IPX4防水 ハンズフリー通話 リモート会議 Web会議 AAC対応

MacApple Watch でロック解除する設定にしてある状態で Apple Watch を着けていると、その Mac から半径約3m以内ではケースから取り出しても iPhone に自動接続されない。」

これも Apple Watch を使っている場合に起きる現象で、またか…と思いましたが、さらにもう一つの条件が大きく関係していたため、発生条件に気付くのに時間がかかりました。

初回の iPhone とのペアリングは問題なく、通常は一旦ケースにしまって再びケースから取り出せば、自動的にすぐ再接続されるのが TWS のメリットとして、先にも上げていますが、それがなぜか再接続されないままタイムアウトしてしまい、Mpow X3 ANC の動作仕様上、そのまま別の機器とのペアリングモードに入ってしまうという現象です。

発売日に予約購入したので、当初は初期不良かと思って購入先の「e☆イヤホン 初期不良受付窓口」に連絡・返送して確認してもらったのですが、Apple Watch を使った条件でも再現しないとのことで、そのまま戻ってきました。

その後色々使っていると、どうも別の階や Mac を持たずに外出した時など MacBook Air から離れた場所で Mpow X3 ANC をケースから取り出すと正常に再接続されるということがわかってきました。つまり「Apple WatchMac の近く」という条件で発生している…?

そこから「ひょっとして?」と思い当たったのが、MacApple Watch と組み合わせて便利にセキュアに使えるようにするあの機能。

macOS には、Apple Watch を腕に装着してロック解除された状態で、Macタッチパッドやキーに触れると、パスワードを入力しなくても自動的に Mac のロックを解除する機能があります。
しかし Apple はこの機能が Apple WatchMac がどれくらいの距離以内でロック解除されるのか仕様を公表しておらず、気になって検索してみたら実機検証した動画が見つかりました。

CNET 本家のこの実験動画では、Apple WatchMacBook のロック解除が動作した最長距離は「約9ft (約3m)」ほど。

24時間365日 Apple Watch を着けっぱなしで生活しているので、試しに MacBook Air から 3m 以上離れた場所で Mpow X3 ANC をケースから取り出すと、見事にApple Watch をつけていても iPhone に自動接続され、約 3m 以内の距離では 100% 自動接続されないのを確認。
さらに、macOS 側でこの設定を OFF にして MacBook Air を再起動すると、同じくApple Watch をつけていても iPhone に自動接続されるのを確認。(この設定を ONにした状態では、Mac の電源を落としていても現象が発生しました)

これでは MacBook Air を使いながら使えない

Apple WatchMaciPhone との間の Bluetooth 通信のほとんどは、音楽再生や通話に使われる Bluetooth Classic (BR/EDR)ではなく BLE(Bluetooth Low Energy)通信のはずで、それぞれペアリングの仕組みも異なります。

それがなぜ、Bluetooth イヤホンのペアリングに影響するのか全くわからず、メーカーに問い合わせて数ヶ月後、「Mpow X3 ANC に採用している Bluetooth SoC "BES2300" の仕様によるもので、AppleBluetooth の通信仕様を公開していないため回避は不可能」との回答。

中国の Bestechnic 社製 "BES2300" という Bluetooth SoC (Bluetoothオーディオ機器に必要な機能をワンチップ化したIC) は、2020年中頃に急に増え始めた中国メーカー/ブランドの1万円弱前後のノイズキャンセリング機能付TWSにかなりの比率で採用されているため、同じような現象が起きる機種が他にもまだあるかもしれません。

高機能化でメーカーの得意/不得意の差が現れやすくなり、かえって使いづらくなることも

完全ワイヤレスイヤホンをはじめとする Bluetooth イヤホン・ヘッドホンは、基本的な「機能」はほぼ同じため、他社製品との差別化が難しく、メーカーによっては独自チップを開発して搭載したり、スマホや音声アシスタントと連携させたり、あの手この手で機能を盛り込んだりしていますが、先に挙げた例のように、中にはその弊害によって他の機器と干渉して動作に不具合が出たりするものや、余計なお世話に感じる機能がついたりして、かえって「使いづらい」ものになってしまっている機種も見受けられます。

高機能化を支える "BLE" の多用しすぎによる弊害

最近のTWSイヤホンには、ソフトウェアで音質や設定、機能を変えられる仕組みを持った機種も多く、専用の設定用スマホアプリがある機種がかなり増えてきました。また、"OK Google" や "Hey Siri" などの音声アシスタンス機能も、多くの機種が対応するようになりました。

機能や音質を自分好みにカスタマイズできたり、スマホと連携して自動的に機能をスマートに切り替えたりするのはよいのですが、そうしたことが行えるのは、Bluetooth の通信のうち、音楽や通話のための通信方式 "Bluetooth Classic (BR/EDR)" とは異なる "BLE(Bluetooth Low Energy)" という通信方式によって実現されています。

問題は製品へのその実装方法で、音楽や通話のための "Bluetooth Classic" に加えて、メーカーによって独自拡張が可能な "BLE" 通信によって、先に挙げた現象のように、同じ "BLE" を使用する機器 (スマートウォッチや活動量計スマホやPCなど) 同士で干渉が起き「特定の機種と別のあるBLE機器を同時に使った場合のみ発生する、謎の現象」に悩まされる場合があります。

特にスマホと連携してリアルタイムに「何か」を自動的に変化させる「スマートな機能」がある機種は、予期せぬ動作をしたり他のBluetooth機器と干渉をすることもあり、注意したほうがよいかもしれません。
あるいは、スマートウォッチなどをスマホと同じメーカーが出している機器で揃えている場合は、同じメーカーの製品を選ぶと、「謎の現象」はおそらく現れないのではと思います。

ペアリングや動作モードの変更を知らせる「アナウンス音声が長すぎる」機種

Sony WF-1000XM3 を使っていた際に一番うっとうしく感じ、回避方法がなかったのがこの問題です。
他のメーカーの機種では、ペアリング時やノイズキャンセリングなどのモード変更時に「Connected」や「接続しました」という短い音声や、ボタン操作時に「ピッ」と鳴ったりしますが、Sony WF-1000XM3 だけは、読み上げる文章が長すぎるという、とても余計なお世話でうっとうしい仕様でした。読み上げる言語は変更できるのですが…どの言語に変更してもとにかくいちいち長い。

アナウンス読み上げをOFFにする機能はあるものの、今度はペアリング時以外何も動作へのフィードバック音がしなくなるという仕様…

この機種は、ユーザーインターフェイス全般に「開発者が想定する使い方をユーザーに押し付けるタイプの設計思想」に感じました。
後継機の WF-1000XM4 や、他のソニーBluetooth イヤホン・ヘッドホンではその辺りはどうなっているのか、試していないので分かりません。

完全ワイヤレスイヤホンで個人的に最重視するポイント「ケース」

ここからは完全ワイヤレスイヤホンを選ぶ際に、個人的に着目する点をいくつか挙げますが、「ケースが一番重要」だと思っています。

ケースの出来次第で出し入れのしやすさ=使い勝手が大きく違う(→落としにくさに影響)

完全ワイヤレスイヤホンは、使用していないときはケースに収納して充電するのが基本となるため、「ケースから取り出して左右とも耳に装着」し、「左右とも耳から外してケースに収納する」という動作のしやすさが、日常の使い勝手の大部分を占めるといっても過言ではないと思っています。

ほとんどの機種は、充電ケースにマグネットで吸着して固定される仕組みになっていますが、主に次のような点をチェックします。

  • フタを開け閉めしやすく、その際に落ちにくいか(→落としにくさに影響)
  • ケースから取り出す際に指でしっかりつまみやすい形状や向きになっているか(→落としにくさに影響)
  • 取り出してから耳に装着するまでに手首をひねったり持ち替えたりする必要がないか(→落としにくさに影響)
  • 収納時に左右を間違えやすい本体やケースの形状になっていないか(→落としにくさに影響)

フタの開け閉めのしやすさ

フタをロックする機構はメーカーや機種ごとに異なり、フタの開け閉めのしやすさも異なります。

マグネットの力で パタッと閉まるものが多いですが、スプリング式のツメがついた押しボタンで引っ掛けて固定するものや、パカッと開くのではなくフタを後ろにニュッとスライドさせたり、フタではなくケース側を回転させることで開くもの、古くからあるケースからレールを引き出すタイプや、外見からは開け方が想像できないような「使いやすさ」がデザインされていない機種もあります。

機種によっては、製品紹介にケースの写真がなかったり、フタを開けた時にどんな状態になっているのか分からない機種もあり、同じメーカーの製品でも機種によって機構や形状がバラバラだったりもするので、こればかりは機種ごとに確認する必要があります。

ポイントとしては、「自分がどんな場面でケースから取り出したり収納することが多いか?」、すなわち完全ワイヤレスイヤホンの着脱を「どんな場所で、どんな時に、どんな状況で行うか?」を想像して、その開け閉めで問題ないかをチェックすることで、フタを開け閉めするタイミングでのイヤホン本体やケースごと落下を低減できる可能性があります。

取り出し/収納のしやすさ

フタを開けた時、左右のイヤホンがどのような状態で収まっているか?
これは完全ワイヤレスイヤホンのケースの中でも、個人的に最重要視するポイントです。

完全ワイヤレスイヤホンのケースの形状と本体の収納のされ方を見ると、概ね次の2種類のパターンがあります。

  1. ケースを置いた状態で、左右の本体を両手で同時に取り出して装着することを前提としたデザイン
  2. ケースを手で持ったまま、左右の本体を片方ずつ取り出して、左右それぞれ分けて装着することを前提としたデザイン

Apple AirPods シリーズや Sony WF-1000XM3 など、ケースの底面が丸くが自立しないタイプが後者「2」のタイプになります。 ケースの底が平たい機種は概ね前者「1」のタイプになりますが、本体がどんな向きで収納されているか次第で「2」に該当する機種があるので注意が必要です。

「2」のケースを持ったまま片手で片方ずつ取り出して装着する機種は、多くの場合、右と左の装着/収納時にケースを持ち替える必要があるため、その瞬間の落下の機会が生じます。 「1」のタイプは、理想的にはフタを開いた時に「ハ」の字型に左右の本体が収納されていると、最も取り出し/収納時に手首を回転させる必要が少なく、安定して取り出して装着/取り外して収納が行えます。
これが、左右が縦に並んでいる場合も手首の回転を最小限におさえられますが、左右が縦に並んでいるものの、イヤーピースが手前側ではなく奥になる形で収納されている機種が時々あり、その場合は手首を逆向きに大きくひねって取り出し/収納するか、左右を片方づつ一旦取り出して手を持ち替えて向きを変えて耳に装着し、収納するときはその逆の動作となり、落下の原因となる「手の持ち替え」が多く発生することになります。

また、イヤホン本体のノズル部分が長めの機種では、ケースからひねるようにして取り出し/収納する必要のあるものもあります。

ポイントとしては、「ケースから指でどこをどうつまんで取り出すか?」「ケースから取り出して耳に装着/耳から取り外してケース収納の際に手首をひねる必要があるかどうか?」の一連の動作をチェックすることで、取り出して装着しようとして、つい手が滑ってイヤホン本体を落としてしまう確率を大幅に低減できる可能性があります。

完全ワイヤレスイヤホンの、よくあるケースへの収納向きの例

上の図で AB は一番よく見るタイプですが、B がもっとも手首をひねったり回転させる必要が少なく、機種によってはイヤホンを指でつまみやすくするために窪みがあり取り出しやすく配慮されている場合もあります。そうした機種はユーザビリティをちゃんと考えたデザイナー/設計者がデザイン/設計していることが伺えます。

CD は縦に並んだタイプですが、指でつまんで耳に装着するまでの一連の動きが全く異なります。
C は左右の間に隙間があり、やや手首をひねるものの、指でつまんですぐに装着/収納ができますが、D は反対向きに収納されているため、片方ずつ取り出す必要があり、どこをどうつまんで取り出すかが人によっておそらく異なり、手首のひねりと左右の手の持ち替えも発生するため、D のタイプはユーザービリティを主眼としたデザインとしては好ましくないパターンの一つです。


この機種で一番惜しいと思ったのが本体の収納向きが "D" のパターンになっている点。
取り出し/収納のしやすさでは "C" の方が容易でつい落としてしまう機会も減らせそうですが、おそらくケースの側面形を手のひらの形に合わせてデザインしたために、ケースの中で一番重量のある「バッテリー」の搭載位置 (手にした時の重心位置に大きく影響) の関係でやむを得ずこうなったのではと想像。"C" の向きにしてバッテリーを後部に搭載すると後ろに転倒すると思われ。

E はケースの奥がバスタブのように広く深くなっているタイプを想定した図ですが、フタが奥にスライドして開く機種でよく見かけるタイプです。このタイプは単純化して考えると、イヤホン本体をケースに斜めに差し込むような状態になり、マグネットの吸着部位が奥の方になるので、雑に収納しても奥で固定され、収納時に落としにくいデザインかもしれません。

ケースの大きさや形

ケースが筒のような形がよいか、できるだけ薄い方がよいか、立方体のような形でもよいかは、どんなシーンで主に使うかにもよりますが、個人的にはケースはできるだけ薄くてかさばらないものが好みです。

縦方向でも横方向は問わずケースが薄いと、カバンの内ポケットや上着のポケットにも入れやすく取り出しやすいので、カバンの中をごそごそ探す必要もありません。ただ、最近の機種ではケース自体がびっくりするほど小さなものも多く、よほどケースが大きい機種でなければ気にならないかもしれません。

特に、ケースにストラップがついていたり、付けられる機種は何かと便利です。AirPods Pro など大量に売れている機種は、ケースを保護するカバーも豊富な種類が売られており、ケースにストラップやカラビナ付きのカバーをつけるのも手です。

メーカーによっては、製品ページにケースの大きさや重さが書いてないところもあるので、実機に触れる機会がない場合はケースはどんなケースか、蓋の開き方や収納状態も含めて確認しておくとよいと思います。

ケースにモバイルバッテリー機能はいらない

個人的にはこの機能はいらないと断言しますw

比較的初期の機種では、ケースがモバイルバッテリーとしてスマホの充電にも使えるという機種もありましたが、モバイルバッテリーを別に用意した方が明らかに便利です。中にはケースにモバイルバッテリー機能がありながらバッテリー残量表示がない(!)という機種もあったり、帯に短したすきに長しで中途半端になりがちです。

そうした機種はケースが大型のものが多く、一方で、モバイルバッテリーはどんどん薄型小型大容量化しているので、どんな小さなものでもよいのでモバイルバッテリーを常備携行しておくのがおすすめです。
スマホを充電している間、ごろごろとかさばる完全ワイヤレスイヤホンのケースを接続したまま一緒に持ち歩くところを想像すると、人によっては使えるシーンはかなり限られ、ケースが無駄に大きく重いというデメリットの方が目立つ場合があるかもしれません。

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充電ポートのタイプや位置、Qiワイヤレス充電の有無

最近の機種はケースも小型で、急速充電ですぐフル充電されるのであまり気にする必要はありませんが、充電用 USB 端子がケースのどの位置についているか?を見ておくと、充電が必要になった時に机の上などで「なんかじゃま」に感じるかどうかをある程度予想できます。
概ね、ケースの「背面・正面・横・底面(縦型ケース)」のいずれかの位置についていることが多いと思います。横や底面に充電ポートがあると充電中も邪魔になりにくいですが、背面や正面に充電ポートがあると、ケースが長細いと「なんかじゃま」に感じる場合ががあります。

また、バッテリー残量表示の有無も充電のタイミングやあと何回本体を充電できるか?を見計らう上では重要なポイントにもなります。

1万円前後クラス以上の機種は、ほぼ USB Type-C ポートで充電できるようになっていますが、5千円以下クラスの機種では Micro USB ポートを採用している機種もまだあるので確認しておくとよいでしょう。

また、最近は「Qiワイヤレス充電」に対応した機種も増え、1万円台半ば以上の機種では多くの機種が対応しています。スマホ用にQiワイヤレス充電器を持っている場合は、Qiワイヤレス充電に対応しているかどうかで選ぶのもよいと思います。完全ワイヤレスイヤホンが、充電も含めて「完全ワイヤレス」イヤホンになります。

実はあまり気にする必要のない点

完全ワイヤレスイヤホンを含む Bluetooth オーディオ製品のメーカーの謳い文句の中には、Bluetooth に詳しい人から見ると抱腹絶倒の内容が書かれていることが多くあります。

Bluetooth のバージョン」はオーディオには無関係

Bluetooth のバージョン」は、一切気にする必要はありませんBluetooth 4.0 でも Bluetooth 5.0 でもオーディオの通信には一切関係ありません

詳しくはこの記事に書いてある通りで、Bluetooth 4.x → 5.0 → 5.x で規格の上で向上したのは、オーディオ伝送(A2DP)には関係のない、主にスマートウォッチやセンサー、照明のコントロールなどに使う Bluetooth の省電力通信規格「BLE」の仕様内だけです。
メーカーでさえもこの違いを理解しないまま「限りなくウソに近い謳い文句で宣伝してしまっている」状況なので、それを真に受けざるを得ないメディアや販売店はメーカーの宣伝文句をそのまま使ってしまっています。

バージョンの違いで実際に影響があるとすれば、Bluetooth のバージョンが新しいことで搭載する Bluetooth チップ(SoC)がより新しいものになっていることで、同時にデータ処理能力やオーディオ再生能力、音質なども向上している可能性が高いかも?といった点です。
ただ、これも必ずしも Bluetooth SoC が新しければいいと言うものでもなく、開発者がどれだけそれを使いこなせるか次第で性能や音質、使い勝手は大きく変わります。

また、スマホ(送信側)の Bluetooth のバージョンが 4.x でも、Bluetooth 5.x の完全ワイヤレスイヤホンは普通に使えますその逆でも同じく。メーカーが用意している専用スマホアプリでさえ Bluetooth 4.x の範囲内の機能しか使っていません。

完全ワイヤレスイヤホンはその性質上、非常に小さなスペースに Bluetooth チップと基板、バッテリーとアンテナ、ドライバーを内蔵する必要があるため、1チップタイプがほとんどですが、Bluetooth ヘッドホンなどでは、音声処理を Bluetooth チップだけに頼らず、別途専用の D/Aコンバーターやアンプを搭載することで、Bluetooth のバージョンは 4.x であっても、Bluetooth 5.x 採用機より高音質な機種はいくらでもあります。

対応コーデックはTWSではほとんど無視してよい(実は SBC が一番音質が良い場合も?)

aptX は音質がよい?という「都市伝説」

Bluetooth オーディオ機器で「音質が良い」とよく言われている音声圧縮コーデック「aptX」シリーズの問題については、その背景事情や経緯など色々問題がありすぎて、別途詳細な記事をどこかで書く予定ですが、「aptX」や「aptX HD」に採用されている音声圧縮方式「ADPCM」は、その原理上避けらない欠点があり、実は現代の音楽にはあまり適しているとは言えません。
aptX が開発されたのは実は Bluetooth 標準オーディオコーデックの SBC よりも古い、今から30年以上前の1988年。そのためか、特にEDMやエレクトロニック・ポップの一部の曲で、聴いてすぐわかるほどの音質劣化が生じます。おそらく当時は EDM などといった音楽はなかったので問題にはならなかったのでしょう。

また、SBC や AAC も送信側の機種 (スマホやパソコンの機種やOSなど) によって処理方法(エンコーダー)や音質が異なることが多く、コーデックが同じだからといって同じ音質とは限りません。特に AACiPhoneAndroid の各メーカーとでかなり違いがあり、SBC は Bluetooth の標準コーデックということもあり、比較的送信側の機種を問わず近い傾向があるようです。

これまで Bluetooth では「aptX」でしか聴いたことがなかったという方は、一度先入観を捨てて「SBC」や「AAC」で聴いてみると、音質面で意外な発見があるかもしれません。

aptX は SBC や AAC より消費電力が大きく再生時間が2割ほど短くなる

ちなみに、完全ワイヤレスイヤホンのカタログスペックを見ると、連続再生時間はコーデックがaptX の場合のみ、約2割程短くなっています。
実際に、カタログスペックで連続再生時間が「aptXで6時間」とされている機種をAAC接続で連続再生したところ、9時間以上再生できた例もあります。

全てのメーカー製品でこの傾向があるので、aptX は標準コーデックの SBC や AAC に比べて再生時の消費電力が大きく、「バッテリーの持ち」という点からも、完全ワイヤレスイヤホンにはあまり向いていないのかもしません。

音声の遅延は、コーデックの違いよりも送信側端末の機種による影響の方が大きい

aptX の宣伝文句としてよく謳われる「低遅延」は、実際にはコーデックの差よりもスマホの機種など送信側による遅延の差の方が大きく、実測すると Bluetooth オーディオの標準コーデック「SBC」と大差なかったり、むしろSBCの方が低遅延な場合もあります。
また、最近増えている「ゲーミングモード」を搭載した完全ワイヤレスイヤホンは「aptX 非対応」の機種がほとんどだったりします。

出典:© Understanding Bluetooth codecs - SoundGuys

完全ワイヤレスイヤホンおいては対応コーデックに関しても、Bluetooth のバージョンと同様に「メーカーやガジェット系メディアの謳い文句に騙されないように!」といったところでしょうか。

さらに、YouTube などの動画再生アプリでは、実は Bluetooth 使用時の遅延を考慮して、動画と音声の再生タイミングを合わせる仕組みが備わっているため、体感上ほとんど遅延を感じないと思います。

音声の遅延が問題になるのは主にゲームなどですが、どうしても Bluetooth を使わなければいけない止むに止まれぬ理由がなければ、有線イヤホンを使うのが無難でスマートな気がします。

尚、Bluetooth の音声通話は音楽再生とは別の方式 (HFP, HSP)で通信するため、機種を問わず音楽再生 (A2DP) のような遅延は発生しません。

aptX 非対応化のトレンド?

ソニーの完全ワイヤレスイヤホンやワイヤレスヘッドホン・イヤホンが、最近徐々に aptX 非対応になってきていることは、ガジェットファンの方はご存知かもしれません。
ソニーは独自開発のコーデック LDAC を普及推進したいという狙いもあるとは思いますが、AAC や SBC で充分な音質と長時間再生が実現できるので、実用上のメリットがあまりない aptX に対応する必要もないということなのかもしれません。

今や、地デジTVやBS/CS放送の音声はほぼ全て AAC という例を挙げるまでもなく、MPEGの一部として標準規格化されあらゆる分野で最もメジャーな音声圧縮方式の一つとなっており、ライセンス料は発生するもののエンコード/デコードに関して豊富な実績やノウハウがあるため、さまざまな業界で使いやすいのかもしれません。

特に、Bluetooth オーディオ製品を実際に開発するエンジニアの方は、AAC や aptX(ADPCM) がどういう特性を持ったコーデックなのか、その素性をより詳しく知っているはずです。

LDAC については、Android 8.0 (2017年リリース) 以降ではがOS標準でサポートされるようになったため、Android 8.0 以降のスマホを使っていれば、すでに LDAC が使える準備が整っています。
LDAC は「ハイレゾ対応」がメインのように宣伝されがちですが、接続安定性重視の 330 kbps でも AAC を上回るような充分な音質が得られるメリットの方が大きいのではと個人的には思います。

音の途切れは現行機種ではほぼ気にする必要はないレベル。スマホの新旧による差の方が大きいかも?

完全ワイヤレスイヤホン登場初期は「音が途切れやすい」というのがかなり問題になったりしましたが、現行機種ではほぼ気にする必要はないレベルになっています。

それよりも、もし古いスマホを使っているなら、スマホを新しい機種に機種変更した方が接続が安定する可能性が大きいかもしれません。個人的な経験でも、iPhone 6s を使っていた頃はやや途切れ気味になっていた機種・条件下でも、iPhone SE 2nd gen に機種変更したところ、全く途切れることがなくなったりしました。

もちろん駅や交差点などさまざまな機器からの電波や電磁気ノイズが激しく飛び交う場所では、さすがに途切れますが、音の途切れから復帰する早さも、新しい機種ほど改善されている傾向があります。
また、AirPods のように耳から「棒/うどん」が飛び出した機種は「棒/うどん」の先端にアンテナが搭載されているため、通信安定性の面では有利な条件になります。
これは人体の水分が Bluetooth が使用する2.4GHz帯の電波を遮る性質があるためで、通信安定性を高めるために、各社とも耳や頭からできるだけ離れた位置にアンテナを配置できるように形状を工夫しています。

5千円以下の低価格機はよくもわるくも1, 2世代古い仕様のものも多い

最近は千円台でも完全ワイヤレスイヤホンが買えるようになってきましたが、安価な機種はなぜ安いか?と考えればわかるように、基本的に1, 2世代前のモデルをベースとしていたり、バッテリーが小さく持続時間が短かったりします。例えば、充電端子が USB Type-C 端子か、USB Micro B 端子かどうかが一つの新旧世代を見分けやすい点かもしれません。

古い世代だからと言って性能や音質がよくないかというと、そうとも限らずメーカー次第でもあるので、実績あるオーディオメーカー製ならある程度は期待できるものの、新興メーカー製や、えっ、このメーカーが?というものは、レビューなどを参考にしたり、ある程度割り切って使う前提で考えてもよいかもしれません。

完全ワイヤレスイヤホンはまだまだ発展途上

長々と完全ワイヤレスイヤホンを使ってみて感じたこと、思うところを書いてみましたが、完全ワイヤレスイヤホンは今もなお進化し続けている最中で、半年も経つとまた様子が変わっているかもしれません。(この記事を書き始めた頃と今とでも、すでに様子が変わっています💦)

ただ、初めて完全ワイヤレスイヤホンを買うという場合は、ここ数年ずっと動向をウォッチしていても、やっぱり1万円前後のシンプルな機能の安定した機種が一番コストパフォーマンスに優れておすすめだと思います。

唯一の例外は、AppleAirPods Pro です。

AirPods Pro は単なる「完全ワイヤレスイヤホン」というジャンルに留まらず、新機能が増えたり、内蔵された加速度センサーなどを利用した想像もしない使い方や発展性など、「ウェアラブルディバイス」としての可能性を秘めています。そうした意味で、AirPods Pro のみは他の完全ワイヤレスイヤホンとどっちがいいか?などと単純に比較できない「別ジャンルの製品」とも言えるかもしれません。
ただし、iPhone ユーザー以外にはそうした恩恵は何もありませんが。

ちなみに、Sony WF-1000XM3 が発売されたのが2019年7月、AirPods Pro が発売されたのが同じく2019年の10月。ほぼ同時期に発売された製品にも関わらず、今もなおどんどん新機能が追加されたり性能向上し続ける AirPods Pro のような機種は稀で、たいていの機種は1, 2年で世代交代して「旧世代機」になってしまいます。

当時 AirPods Pro とあらゆるところで比較されていた Sony WF-1000XM3 も、今年2021年6月に後継となる WF-1000XM4 が発売され、旧モデルになりましたが、別の見方をすると、ひとつ前の実績あるソニーの最上位モデルが価格が下がってお手頃になったとも言えます。

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完全ワイヤレスイヤホンはいずれ単なるオーディオ機器ではなくなる?

完全ワイヤレスイヤホン/TWSは、これまでのオーディオの常識が通用しない部分も多く、音楽の聴き方がストリーミング配信サービスが主流に移行している最中、スマートフォンタブレットなどとの親和性の高さで急速に普及したのは見ての通りで、超小型化のニーズからこれまでオーディオ用にはあまり使われていなかった最新技術も積極的に採用されたりしています。

TWSの最近のトレンドの一つとしては、補聴器など「ヒアリングエイド」「ヒアラブルディバイス」分野とのクロスオーバーで新しいカテゴリーの製品も出てきており、音のパーソナライズにとどまらず、軽度〜中度の難聴に悩まされる方の大きな助けになる可能性があります。

また、先の AirPods Pro の加速度センサーによるヘッドトラッキングは、現在は空間オーディオに利用される程度ですが、手に持つスマホと違って常に頭の動きと連動するため、ナビゲーションなどの分野でも期待されているようです。


Apple に続いてスマートフォンメーカーが次々とTWSを作り始めたのも当然の成り行きで、今では世界の市場全体の半分近くをスマートフォンベンダーが占めるほどになっており、数年後もまだ「完全ワイヤレスイヤホン」と言えるのか、「ウェアラブルディバイス」としての側面が大きくなってくるのか、先行きが楽しみです。

 


ネット通販で購入する際の注意点「技適」認証の有無 しかし…

Amazon などのネット通販サイトでは、家電量販店やオーディオ専門店の店頭ではまず見ない、見たことも聞いたこともないメーカーの完全ワイヤレスイヤホンが大量に販売されていますが、中には日本国内での Bluetooth 機器の使用に際して必要な電波法に基づく技術基準適合認証、通称「技適」を取得していない機種も時々あります。

現状では技適認証のない機器の「販売は合法で、使用は違法」という、「ザ・縦割り行政」な状態になっていますが、商品説明に「本当の機種型番」が書いてあれば、多くの機種は総務省が用意している次のサイトで、技適認証の有無が検索で確認できます。

検索結果が英数が全角で表示されるという非常に見づらい、いかにもお役所のシステムという感じですが、このページに示されているようなマークと認証番号が本体またはケースに印字またはシールなどで貼り付けられている必要があります。(本体が小さすぎる等の場合は取説や付属品などに印字)

事実上法令が機能していない…?!

実際に Bluetooth 機器でこの法令に違反して摘発されたという例は聞いたことはありませんが、製品の品質や音質も含めて「令和最新進化版」よりは、家電量販店やオーディオ専門店、メーカーや代理店の直販サイト等で販売されているものを購入するのが、サポートも含めて確実です。
ちなみに AliExpress などで購入した製品の使用はほぼ100%アウトになります。使用しなければセーフです。Amazon楽天でも、販売元の住所が海外場合はかなりあやしく、日本のショップでも並行輸入品はほぼアウトと考えてよいでしょう。

仮に日本国内で同じ製品を売っていても、日本の正規代理店や日本法人から販売されているものは、日本向けに技適認証とPSE認証およびその印字またはシールが貼られたものになっており、並行輸入品とは異なっていることがほとんどです。(メーカーによっても違いますが)

とは言っても、実際のところ Bluetooth SIG に認証された機器で出力が 10mW 未満の機種であれば、そもそもの電波法が意図する他の通信を妨げるような製品はほとんどないので、Bluetooth 認証機器に限っては例外でもできると良いのですが…

Bluetooth の送信出力区分 Class 1 の最大出力「100mW」は日本の電波法の基準「10mW」を超えてしまうので、Class 1 の機器でも日本向けは 10mW 未満に抑えられていますが、時々法令の範囲を超えた製品が抜き打ち検査で出て来ている状況なので、まだ難しそうですね…

完全ワイヤレスイヤホン国内市場ランキング

蛇足:

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