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思索と探索のクロッキー帳。オーディオや音楽の話題、レビューなども。

ハイレゾDAP比較一覧 2021年6月版 〜AKM工場火災の影響が色濃い2021年上半期のDAP新機種動向

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2021-07-08 更新

AKM製DAC搭載機のDAC換装リニューアル機や数量限定機種が多くリリース

前回の2021年1月の時点から半年近く経ちましたが、今のところは昨年のAKM延岡工場の火災の影響でAKM製DACを搭載する機種のDACを換装したリニューアルモデルや、AK4497を筆頭とするAKM製DACの各社のストック数に合わせた数量限定でのリリースや発表などが目立つ形になっています。

AKM延岡工場火災の影響とその後の動向

FiiO M5 や Lotoo PAW S1 などに採用されている、ヘッドホンアンプ内蔵DAC「AK4377」の他、ローコストDACチップのいくつかは、ルネサスエレクトロニクス社の工場にて委託生産が開始されているようですが、AK4490, AK4493, AK4497, AK4499 といったオーディオファンには馴染み深いハイエンドクラスのオーディオDACは生産終了となり、各メーカーのストックおよび市場流通在庫がなくなり次第、採用機種の新規生産は終了すると思われます。

しかし、現時点(2021年6月)でのAKMのWebサイトには、生産終了となった AK4490EQ, AK4493EQ と同一スペックの AK4490REQ, AK4493SEQ が「開発中」のステータスになっているほか、欄外に「AK4498EQ, AK4499EQ: フラグシップ DAC 製品のリニューアルプランは近日中に公開予定です」との表示があり、DACの生産には1年ほどかかるというスパンを考えると時間はまだかかるであろうものの、これらのDACは近い将来リニューアルして復活する可能性もありそうです。


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ちなみに、AK4191とAK4498 は、デジタルフィルター+ΔΣモジュレーター(AK4191)とD/Aコンバーター(AK4498)をセパレート化した、PCM 64bit/1536kHz, DSD 45.1MHz にも対応するDACソリューションで、昨年の夏には開発はほぼ出来上がっていたようです。

AKM延岡工場は現時点でも復旧時期の見通しはまだ不透明のようですが、火災時に天井が一部崩落するなど損傷の大きい最上階の解体などは始まっており(台風対策も兼ねてでしょうかね…)、再びデジタルオーディオの世界に音楽性豊かな音に定評あるDACメーカーとして返り咲いて欲しいものです。

2021年上半期の新機種では、こうした事情からAKM製DACの事前確保数によって各社それぞれ異なるアプローチで製品展開をする形になっているのが、興味深いところです。その詳細についてこの記事の後半で分析しています。

ハイレゾDAP比較一覧 2021-06-18 版(PNG画像4枚)

Last updated at 2021-07-18: FiiO M11 Plus LTD 国内価格追記

今回、2021年6月時点で発表および海外で先行して発売開始されている新機種に加え、前回掲載しきれなかった機種も追加し、全85機種(バリエーションを除く)の本体サイズを実寸比でスペックと共に比較した「ハイレゾDAP比較一覧」を2021年6月時点の最新版に更新し公開しました。

ENTRY (〜$399/〜約4万円)

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MID-RANGE ($400〜$999/約4万円〜10万円)

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PREMIUM ($999〜$1,690/約10万円〜20万円)

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HIGH-END ($1,699〜/約20万円以上)

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掲載画像は、各 4096 x 1394 pixel のPNG 画像となっています。

超高解像度版PNG画像 (10,575 x 3600 pixel) ダウンロード

注意:Dropboxのフォルダー画面が開きます。1枚あたり約5MB前後あります。

前回より10機種程増え&増やしたため、一段と横長画像になってしまいましたが、Twitter にも投稿している関係で、Twitterの最大画像サイズ上限が従来の2048pixelから4Kサイズ(4096pixel)に拡大したことを受け、フォントの再調整やデータの軽量化、レイアウトの微調整などを行い、今回全面的に刷新しています。

DAP比較一覧の作成仕様

DAP比較一覧の作成仕様や掲載内容は基本的に前回と同様、USDでのグローバル価格(MSRP: Maker Suggested Retail Price=メーカー希望小売価格、および海外大手オンライン販売店価格)を基準に、Illustratorデータ上で実寸で作成し並べています。 尚この比較図は日本国外向けも対象としているため、日本では発売されていない/されなかったモデルも一部含んでいます。ちなみに、一覧画像を4つの価格帯の4枚に分けているのは、Twitter での添付可能画像数が4枚までという制約によるものです。

  • 各メーカーまたは代理店の公称スペックおよび、公式SNSでの投稿、国内外の販売店等による実測値をもとに、実寸比で作成
  • 左からグローバル価格(USD)順に掲載。
  • 日本国内販売価格は「価格.com」に掲載の「ヨドバシカメラ」の価格または、「eイヤホン」と「フジヤエービック」のオンラインストア(随時変動あり/実店舗店頭価格と異なる場合があります)、「Amazon Japan」での税込価格。

掲載項目

  • メーカー、機種名
  • 本国発売日および現地価格、USD価格(MSRPおよび実売価格)、日本国内発売日および現時点の価格(税込)
  • 実寸の本体正面画像および底面シルエット、外形寸法および重量
  • 画面サイズ(インチ)及び横×縦ピクセル
  • 端子位置(3.5mm, 2.5mm, 4.4mm, ラインアウト, S/PDIF(同軸/光), USB, microSDカードスロット)
  • USB DAC 機能及び USB Audio 出力機能の有無
  • 内蔵ストレージメモリ容量及びmicroSD拡張可能上限容量(ファームウェアの更新により変動する場合があります)
  • システム
    ・OS
    ・ビットパーフェクト技術(主にAndroid OS の SRC 回避)
    ・メインSoCおよびメインメモリ容量
    ・CPU×コア数
  • デジタル段
    ・ジッター/クロック方式等
    ・搭載DAC(ch数)×個数またはDAC方式
  • アナログ段
    ・電流出力型DACの場合はI/V変換チップまたは電圧出力モード
    DAC出力のLPF(ローパスフィルター)
    ・ヘッドフォンアンプ/バッファ使用チップまたは技術
    ・ヘッドフォン出力(SE:シングルエンド/BAL:バランス)
    S/N比
    ・THD+N(全高調波歪+ノイズ)
    ・出力インピーダンス
  • Wi-Fi 対応規格
  • Bluetooth A2DP 送信コーデック/受信コーデック(ファームウェアの更新により変更される場合があります)
    ※Hiby Music 独自規格 "UAT" はA2DPプロファイルに含まれませんが、対応機種が増えてきたため併記。
  • バッテリー容量および高速充電対応規格
  • 連続再生時間(メーカー公称値/条件により変動するためおおよその目安)

2021年上半期注目の新機種とAK4497の深い関係

先にも記しましたが、今年上半期に登場したDAPの多くは、AK4497EQ をはじめとする AKM製DAC の各メーカーのストック数に大きく影響されているように見えます。

1. DAC変更でのマイナーチェンジを余儀なくされた? Shanling M6 ver.21 & M6 Pro 21

おそらく一番大きな影響を受けたのは、ほぼ全てのラインナップに AKM 製DACを採用していた Shanling ではないでしょうか。
主力機種、M6 (AK4495SEQ)、M6 Pro(AK4497EQ)、フラッグシップの M8(AK4499EQ) の一連のリリースを終え、次の生産バッチか後継新機機か?というタイミングでAKM工場火災が発生。

Shanling はDAP以外でも、当初DACに AK4493 を搭載して昨年秋にも発売予定だった USB-C DAC/amp「UA2」を、急遽 ES9038Q2M に変更して再発表するなど素早い対応を行なっていた他、DAPにおいても今年に入ってから

  • 「M6」のDAC AK4495SEQ×2 を
    ES9038Q2M×2 に変更した「M6 ver.21
    f:id:align_centre:20210629010713p:plain:w480

  • 「M6 Pro」のDAC AK4497EQ×2 を
    ES9068AS×2 に変更した「M6 Pro 21
    f:id:align_centre:20210629010735p:plain:w480

など、既存機のマイナーチェンジ/アップグレード機がリリースされています。(M6 Pro 21 は確か現時点では日本では未発表?)

DACの変更と言ってもそう簡単なものではないようで、AK4495SEQ や AK4497EQ といったAKM製DACは「電圧出力型」と呼ばれる方式、Shanlign が変更先に選んだ(他に選択肢はなかったのだと思いますが)ESS製のDAC、ES9038Q2M や ES9068AS は通常は「電流出力型」と呼ばれる方式のDACで、DACから出力される信号が電圧信号か電流信号かが異なります。

同じ ES9038Q2M を採用する THE NEW HiBy R6 では電流出力モードで使用しており、電流(I)から電圧(V)に変換する独自の「I/V変換」回路を搭載し、消費電力は増えるもののDACの性能をより引き出す設計になっていますが、ES9038Q2M は設計時に「電圧出力モード」も選べるため、おそらく Shanling の M6 ver.21 および M6 Pro 21 では、DAC内蔵のI/V変換による電圧出力を利用することで、電圧出力のAKM製DACのリプレイス・再設計を最小限のリソースで実現できたのではないか?とも推測されます。

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また、今回完全新規機種ではなく、マイナーチェンジ・アップグレード機としてリリースされた背景には、ひょっとすると後継新機種の開発スケージュールの関係で、既存機種追加生産用のAKM製DACはそれほど調達しておらず、すでに調達済みの他のパーツの利用や商品ラインナップが欠けることによる機会損失を最小限に抑える点などから、FWなどの安定した既存機種のDACアップグレードが得策との判断なのかもしれません。
しかし、マイナーチェンジとは言えDACの変更は大成功だったようで、新バージョンの ver.21 は国内外で好評価を得ているようです。

2. 空白の価格帯になっていた3〜4万円クラスの新星 Shanling M3X

中国では1月に発売されたため前回の記事で取り上げていますが、過去に FiiO M9 などがリリースされていた3〜4万円台の実力派入門クラスに、新機種「M3X」が投入され、今年の3月には日本および海外向けにも発売を開始し、現行機では競合がほとんどない空白の価格帯でもあったためか瞬く間に人気の機種になりました。

前回の記事でも触れましたが、この価格帯は音楽ストリーミングが一般的になった現在においては、ストリーミング対応に必要なスペックのSoCやディスプレイなど主要部品の調達とそのコストを考えると、DAPより圧倒的に性能が良く制約のない「スマホ」+ 最近続々と新製品の登場しているスマホにつないで使える小型の UAB-C DAC/amp との間で悩ましい価格帯となっているようです。

ライバルメーカーの FiiO もこの理由で FiiO M9/M6 を最後に、今の所この価格帯のDAP製品開発や投入の予定はなく、普通は Shanling M3X と同等の性能や音質を同等の価格で実現するのが難しいところ、Shanling はこれまでのハイエンド機 M8 や M6/M6 Proシリーズと同じ SoC(Snapdragon 430) を採用し技術基盤を共通化することで、この価格を実現しているのかもしれません。

3. AK4497を新機種(M11 Plus)用に確保していた? FiiO

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FiiO もまた製品ラインナップのほとんどに AKM 製DACを採用していたメーカーで、様々な機種が影響を受けることになりました。
開発中でプロトタイプまでできていた据置型DAC/ヘッドホンアンプ「K9Pro」はDACを変更して再設計、今年後半に改めてリリースされる見込みになっています。また、M11 Pro、M15 といた主要機種は全て予定生産数に達して生産完了となり「現行機がない」状態に。

そんな中、AKM工場火災後に FiiO が今後の製品リリースプランの中で「少量の AK4497EQ 搭載新機種」として語っていた機種が、「FiiO M11 Plus LTD」として登場しました。

Head-Fi や微博などでの FiiO のJames社長の話を総合すると、この機種の開発計画はかなり前から進めており、AK4497EQ をすでに 14,000個ほど発注済みだったとのこと。デュアルDAC機のため1機につき2個のDACを使うため、約7,000台は生産可能という計算に。

M11 Plus LTD は生産台数限定の上、さらにアルミ筐体とステンレス筐体の2種類をリリースする予定のようです。
「FiiO M11 Plus LTD」は6/18に海外向けの出荷が始まっていますが、日本向けは6/25日時点の技適のページにまだ出ていないこともあり、目処が立てばもうまもなく正式発表されるのでは?と予想されます。

日本でもFiiO製品の現行機がない状態が続いたことで、正式発表はまだできないながらも、4月に先行してプレビュー情報が公開されています。

FiiO M11 Plus は後継にESS製DAC搭載版も予定済み

AK4497EQ 搭載の M11 Plus LTD は生産可能な数が限られていることもあり、AK4497EQ 搭載版の生産完了後は、ESS製のDAC、ES9068AS を搭載したバージョンが予定されていることを FiiO の James社長が微博やHead-Fiなどで語っています。

AK4497 搭載版「M11 Plus LTD」は当初、中国で「M11 Plus」として発表していましたが、ESS版との区別やAK4497版は生産数が限られることもあり、おそらく代理店からの提案等もあってか、最終的に「M11 Plus LTD」が正式名になったという経緯があります。

FiiO M11 Plus LTD は他のメーカーも含めて AK4497EQ を搭載した最新かつ最後の量産ポータブルDAPになる形になり、AK4497EQ + THX AAA の音を最も堪能できる機種として、早期完売必至の予感がします。

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ESSの新世代DAC「ES9068AS」とは?

ESS製DAC「ES9068AS」は、ポータブルDAPの世界では、Astell&Kern SE200 に初搭載され、その後 Astell&Kern KANN ALPHA にも搭載されるなど、ES9028Q2M, ES9038Q2M の上位後継に位置する新しい世代の低消費電力DACチップのようです。(ES9048, ES9058 はどこへ行った?というのは謎ですが…)

ES9038Q2M と ES9068AS を比べてみると興味深く、スペック上はほぼ同等ながら色々と進化しているようで、特に消費電力が、

  • ES9038Q2M
    動作時 40mW, スタンバイ時 1.3mW
  • ES9068AS
    動作時 33mW, スタンバイ時 11μW

とかなり抑えられているのが目を惹き、これはESS社の最新のヘッドホンアンプ内蔵DAC「ES9219C」や「ES9281AC PRO」などと同様の傾向です。

先に紹介した Shanling M6 ver.21(ES9038Q2M) と Shanling M6 Pro 21 (ES9068AS) の比較図で「再生時間」を見ると、バッテリー容量が同じながら、ES9068AS を搭載した M6 Pro 21 の方が長く、AK4497EQ を搭載した Shanling M6 Pro よりも長くなっています。

Shanling M6 シリーズのDACと再生時間の違い
M6 M6 ver.21 M6 Pro M6Pro 21
DAC AK4495SEQ×2 ES9038Q2M×2 AK4497EQ×2 ES9068AS×2
DAC消費電力(参考値)* @195mW @40mW @346mW @33mW
Battery Life: SE 12h 11h 13h 16h
Battery Life: BAL 9h 8h 8h 13h
Battery 4000mAh
SoC Snapdragon 430

DAC消費電力は AKM、ESS とで条件が異なるため、単純には比較はできないので参考までに。

このことから、FiiO M11 Plus の ES9068AS 版では、AK4497EQ を搭載した M11 Plus LTD よりも再生時間がかなり長くなるのでは?とも予想されます。

ちなみに、ES9068AS にはA/Dコンバーターも搭載されており、今後音声入力や音声通話が可能なディバイスなどに採用される例も出てくるかもしれません。

AK4497EQはもともとポータブルオーディオ向けではなかったDAC

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AK4497EQ は、Astell&Kern がフラッグシップDAPA&ultima SP1000」に搭載したのをきっかけに、他のメーカーも追従するようにポータブルオーディオ機器に搭載するようになりましたが、もともとは主に据置オーディオ機器用に開発された「消費電力の大きなDAC」で、ポータブル機に搭載(しかも2基)という時点でかなり無理を承知で設計をしている状態です。
また、DACチップは一般に動作電圧によっても性能が変わり、搭載バッテリーや使用できる電力量の限られたポータブル機への搭載では、周辺回路を含めてDACがもつ最大性能を引き出しきれているのかどうか?あやしい部分もあります。

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AKM が AK4493 は再生産の計画をしているものの、AK4497 はその予定がないのは、ひょっとすると、メインターゲット(据置オーディオ)ではない用途(ポータブルオーディオ)で多用されすぎたことで消費電力の大きさが目立ってしまったため、AK4497 は一旦廃番として ES9068AS に対抗できるような低消費電力で、再生産計画のある AK4493 と AK4499 の間を埋める AK4497と同等の性能の新DACを開発中なのかもしれません。(妄想)

据置オーディオ機器用DACをポータブルオーディオ機器に搭載するという点では、ESS社製のDACでも事情は同じですが、ESS社の場合は、例えば ES9038 シリーズDACは、

  • 据置オーディオ機器向けには消費電力が大きく 8ch の ES9038PRO
  • ポータブルオーディオなど低消費電力機器向けには 2ch の ES9038Q2M

を用意するなど、同一型番のシリーズでバリエーション展開をすることで、型番や公称値だけで判断しがちなスペックマニアにも対応しつつ、メーカーが選択しやすい配慮が見られます。

4. Astell&Kern もDAC+アンプモジュール化! A&futura SE180

突然の発表に驚きましたが、Astell&Kern からも「DAC+ヘッドホンアンプモジュール(SEM)」交換式の機種が登場しました。

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SE180|Astell&Kern

DAC+アンプをセットでモジュール化&交換可能にした製品としては、2019年に Cayin から発売された「オーディオマザーボード」を採用した Cayin N6ii が先行して話題になりましたが、DAPのオーディオを司るコア部分をモジュール化するというコンセプト自体は、Astell&Kern が監修して 2018年に発売された ACTIVO CT10 にて「TERATON」として発表しており、Astell&Kern の中でコンセプトとしては常に意識していたのかもしれません。

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今回の A&futura SE180 では、そのコンセプトを発展させたモジュラーアーキテクチャー(?)「TERATON α」を「SEM」と呼ぶモジュールに実装し、Cayin N6ii のオーディオマザーボードと同様に、SEMモジュールを交換することでDACとアンプ回路をセットで変更することが可能になっています。

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SE180|Astell&Kern

ちょうど、先にリリースされている上位機で同じ A&futura シリーズの SE200 が2種類のDAC+アンプを1台に収めたのとは対照的なのが興味深いところです。

ascii.jp

Astell&Kern ならでは?の設計の抜かりなさ

ちなみに、Cayin N6ii ではオーディオマザーボードと本体間の接続端子に Mini PCI-Express を採用していましたが、SE180 の SEM モジュールでは、見た目からは USB Type-C と思われる端子が採用されているようで、挿抜耐久性の点では安心感のある仕様です(そう頻繁に抜き挿しするものではないとは思いますが)。

個人的に感心したのは、電源スイッチがSE180の本体側ではなく SEM モジュール側についている点。これはつまり、SEMモジュールが確実に本体と接続された状態でないと電源が入らないインターロック的な機構で、安全側に振った設計がなされているように見えます。

「SEM2」の生産数が Astell&Kern の AK4497 のストック数か?

SE180に標準添付されるSEMモジュール 「SEM1」は、据置オーディオ機器用の 8ch DAC、ES9038PRO を1基搭載したモジュール。別途販売される「SEM2」は AK4497EQ×2 のデュアルDAC+アンプで、DAC構成上は A&ultima SP1000 と同じです。
ここから推察できるのは、Astell&Kern でストックしていた AK4497EQ の数が、製品を新たに1機種作れるほどの数はなく、かといって既存の採用機種は生産終了しているため使いどころ難しかったのでは?と。

昨年9月の記事では、Astell&Kern が SE200 で2種類のDACをオールインワンにしたのは今後のフラッグシップ機に求められるものを物理的に「A/Bテスト」をして探っているかのようだと書きましたが、SE180とSEMモジュールの投入によって、Astell&Kern としてはさらにユーザーニーズの動向を見極めやすくなったのではないでしょうか。

今後のSEMモジュールの展開は、現時点での海外の情報によると「SEM3」「SEM4」まではすでに予定されているようです。市場の大多数を占める中国メーカーとは視点の異なる、Astell&Kern の考えるポータブルオーディオの形として、どんな構成のモジュールが出てくるのか楽しみです。

5. 予想外の刺客、R-2R DAC搭載した Cayin N6ii Titanium R-2R Limited Edition

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DAC+アンプをモジュール化した「オーディオマザーボード」を採用し、2019年に登場した Cayin N6ii。これまでに「オーディオマザーボード」のバリエーションとして、

の5種類のが登場し、昨年末のラインアウト専用モジュール「A02」を最後にオーディオマザーボードの展開は完了…と確か言っていたはずでしたが、5月13日突然発表されたのが、Cayin独自開発の「R-2Rラダー式DAC」を採用した新オーディオマザーボードR01」と、その「R01」を標準搭載し、チタン合金製筐体を採用した全世界600台限定の「Cayin N6ii Titanium R-2R Limited Edition」です。

R-2Rラダー式DACは設計製造や使用部品に非常に高い精度が求められるため、この方式のDACを搭載するDAPは従来、LUXURY&PRECISIONHIFIMAN などの高級機を中心に搭載されてきましたが、Cayin は「オーディオマザーボード」というアーキテクチャーのメリットを最大限に活かし、これまで以上に身近に提供される形となりました。

6. iF DESIGN のサイトでリークされた、FiiOのフラッグシップ「セミデスクトップ・ポータブル」機 FiiO M17

今年2月の末に、iF DESIGN AWARD に応募されているのが、iF DESIGN のサイトで公開されていたためにFiiO公式の発表を待たずにその存在が知られることになった、FiiO M17。すでに高い関心を持っている方も多いのではないでしょうか。

6.35mm/3.5mm シングルエンド出力と4.4mm/2.5mm バランス出力端子の計4種類のプラグに対応し、Astell&Kern KANN CUBE と同様に、ESS社製のデスクトップ用 8ch DAC「ES9038PRO」を2基(計16ch)搭載した大型の筐体は、デスクトップでの利用も想定したセミデスクトップポータブルDAPとでも呼べそうです。電源も内蔵バッテリーと外部から12V電源入力を切り替えられ、同軸デジタル出力はRCA端子、専用スタンドも付属する予定など、デスクトップユースで使うことを強く意識した機種のようです。

新しい流れ?バッテリー内蔵セミデスクトップ・ポータブルオーディオ

最近多く見かけるようになった「セミデスクトップ・ポータブル」DAPの流れは、Sony が2018年にハイエンドのバッテリ駆動デスクトップ型プレイヤー 「DMP-Z1」を発表したのが一つのきっかけになったようにも見えます。

DMP-Z1 | コンポーネントオーディオ | ソニー


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DMP-Z1 がリリースされてしばらくの後、中国では「Quloos Q390」という、いかにもその影響を受けたような機種が出てきた他、Astel&Kern からもポータブル機としては従来の規格外の大型DAPAstell&Kern KANN CUBE」が2019年に、iBasso がサイズの制約を取り払って音質に注力した「iBasso DX220MAX」が昨年リリース。Shanling からは、中国の展示会では一昨年あたり前から出ていた、モジュラー式大型デスクトッププレイヤー 「Shanling M30」が正式発表され、中国では発売開始、日本でも7月17日に発売が予定されています。

Quloos Q390


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SHANLING M30 (MUSIN)


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DAP以外にも、Cayin からセミデスクトップサイズの18650バッテリー駆動フルバランス/フルアナログヘッドフォンアンプ「Cayin C9」がリリースされた他、iBasso からは限定生産機「DX220MAX」の後継となる「iBasso DX300MAX」が6月末に発表されるなど、ポータブル機と小型デスクトップ機に加え、その間の「セミデスクトップ・ポータブルオーディオ」が一つのトレンドとなってきました。

このカテゴリーの製品はもともと2019年以前から開発や製品化が進められていたものが、コロナ禍で自宅で過ごす時間や人が増えたことで、より一層多くの人の関心を集めるかたちにもなっていそうです。

Cayin C9・ポータブルヘッドホンアンプ | kopek


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FiiO M17 の発売は夏以降〜年内まで気長に

FiiO M17 は当初、今年の7月以降に発売予定ということでしたが、その後8月とされた後、最近になって昨今の半導体不足や部品調達等の事情で10月に延期という話もあり、狙っている方は Head-Fi の FiiO M17 のスレッドでも眺めながら気長に待った方がよさそうです。

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音楽ストリーミングの更なる普及で、ハイレゾDAPの立ち位置は今後どうなる?

この2年ほどでハイレゾポータブルDAPは、急速に普及している音楽ストリーミングサービス対応のために、OS に Android OS をベースにカスタマイズしたものを採用し、Wi-Fi 通信機能を搭載して各種音楽ストリーミングアプリをインストールして使用できる機種が中心になりました。

もちろん、純粋な音楽プレイヤーとして独自OSで音質を追求した機種やメーカーも健在で、そうしたニーズもありますが、TIDAL が正式サービスインしていない日本でも Amazon Music HD でハイレゾ音楽ストリーミングが開始され、この6月には Apple Music でもロスレスおよびハイレゾロスレスでのストリーミングが開始されるなど、ハイレゾポータブルDAPの世界では、音楽ストリーミングサービスに対応できる「Android DAP」の利便性がより一層高まっています。

Android DAPAndroid スマホのメリット/デメリット

Android DAP」が「Android スマホ」と何がどう違うのか、メーカーによる違いはあるものの概ね次のようなところでしょうか。

Android DAPスマホより優れている点

  • 圧倒的に音質がよい
  • Android OS であっても音楽再生に特化して機能制限や拡張などカスタマイズが施されて操作がシンプル
  • Android の標準音声ミキシング機能(SRC)をバイパスして音楽データをダイレクトに出力する仕組みが備わっている
  • 内部構造がデジタル系とアナログ系がはっきり分けられ、それぞれ厳重に電磁波シールド(EMC)を施された設計でスマートフォンよりも外部ノイズに強い
  • デジタルデータの外乱(ジッター)を低減してより正確に処理するためにクロック/オシレーターに高精度のものが採用されている
  • バランス出力やデジタル出力など、音質を重視した多彩な出力を備える(ものが多い)
  • USB DACBluetooth レシーバーとして使える機種も多い
  • スマホのような通知による邪魔やスマホのバッテリー消費の心配がなく音楽に集中できる
  • スマホよりコンパクト(なものが多い)

Android DAPスマホより劣る点

  • 搭載するSoC(CPU/GPU等)は数世代前のものが多く、スマートフォンほど高速処理ではない(DAPとしては必要十分)
  • 機種によっては Android のバージョンが低かったり、多くの機種では Google Play Store 等は使えなかったり、使いたくても正常に動作しないアプリがあったり
  • 起動時にログイン認証の仕組みがなかったり、アプリは使えても各オンラインサービスのアカウントのセキュリティを担保しにくい
  • スマホより重い・厚い(ものが多い)
  • スマホと別に持ち歩く必要がある

ユーザーは基本的にスマホに慣れているため、昨今は Android DAP にもスマホに近い性能と利便性を求めがちなのは仕方のないことでしょう。
しかし市場規模では桁の大きく違う「スマートフォン」と超ニッチ市場の「ハイレゾDAP(MP3プレイヤーを除く)」では、SoCやディスプレイの調達も必要数が少なすぎて発注できない等、各メーカーともに悩ましい問題となっているようです。

ユーザーも悩み、メーカーも悩むという状態が、このまましばらく続くような気がしています。

  • IFPI releases Music Listening 2019 - IFPI
    2018年の調査結果ですが、ハイレゾDAPの利用時間はiPodやMP3プレイヤーなどを含む「4%」のうち、さらに限られた割合であることが予想されます。さらに、音楽ストリーミングが急速に伸びている2021年現在では、さらに小さな市場になっているのかもしれません。

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DAPは本当に必要なのか?ポータブルオーディオに何を求めるか?

ポータブルオーディオ市場では AirPods シリーズをはじめとする完全ワイヤレス(TWS)イヤホンなど、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンが今やポータブルオーディオの主力商品になっていますが、有線イヤホン/ヘッドホンで高音質に音楽を楽しみたいというニーズも依然としてあり、それを何で実現するか?という時に、音楽ストリーミング全盛期にあっては「DAPは必要なのか?」という話にもなります。

以前から USB DAC搭載ポータブルヘッドホンアンプをスマートフォンに接続する聴き方はありましたが、ここ最近、Android DAPメーカーだけでなく、独自OSで音質を追求していたメーカーからも、USB-C ポートあるいは端子を搭載した USB-C DAC/amp (英語圏では "DAC/amp dongle", "DAC dongle" などとも呼ばれたりしますが) が多数続々とリリースされてきています。

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ここ最近急激に増えてきたのは、数年前まではスマートフォンも USB Micro B だったり USB Type-C だったりしたのが今は Android 端末は USB Type-C(USB-C) に統一され、iPhone の Lightning と2種類だけになったことも大きいでしょうし、音楽ストリーミングの普及によって端末側に microSD などのストレージがあまり必要なくなった+スマホ自体のストレージ容量が大きくなったことも影響しているかもしれません。

小型軽量で手軽にスマホで高音質で聴ける「USB-C DAC/amp」は音楽ストリーミング時代に「手軽な高音質」を指向する人にとって「ポストDAP」になる可能性があるだけでなく、パソコンやゲーミング用途でも注目されるなど利用範囲が広く、ポータブルオーディオの今後を考える上で、今最も目が離せないジャンルかもしれません。

中国市場の急伸と市場がグローバル化した時代に、ユーザーとして望むスペックの製品を手に入れるためには?

ハイレゾDAPだけでなくMP3プレイヤーも含め、今やそのほとんどが中国メーカー製で占められ、世界のポータブルオーディオ自体、市場が急速に拡大していると言われる中国市場のおこぼれにあずかっているような状況にも見えるため、ニーズを製品に反映してもらうためには、ユーザーもグローバルにメーカーに働きかけたりアピールしていくことがますます重要になってくるのでは、と個人的には思っています。

各国の代理店ももちろんユーザーの要望や意見をメーカーに伝えたりしているようですが、代理店契約も様々で製品の仕様にどの程度ユーザーの要望が反映されるかは、代理店次第で大きく変わってきます。
一方、メーカー側も製品の開発に際して世界中のユーザーのニーズを知りたいと思っている所は多く、そのための場として特に「Head-Fi」といった英語圏のコミュニティが非常に大きな役割を果たしており、毎日のようにユーザーからの質問や要望とメーカーからの回答がやり取りされています。

特に Head-Fi のスポンサーになっている企業は、Head-Fi に公式アカウントをもっており、新機種の情報やサポート情報の他、ユーザーのふとした質問にもその場で直接公式として回答してくれるなど、やはりスピード感が違います。

日本人は世代を問わず6割以上が英語に苦手意識があるという調査もあるようですが、オーディオ関連で使われる英語の用語は比較的限られていたり、日本語でも英語表現をそのまま使っている場合も多く、自分の好きな分野の内容だと覚えやすいということもあり、機械翻訳を使えばたいていなんとかなりますw

Android にも iPhone にもOS標準のブラウザに翻訳機能がついている時代なので、英語や他言語のサイトやコミュニティーも敷居はかなり下がっていると思います。また、TwitterFacebook、微博国際版 などソーシャルメディアアプリにも独自の翻訳機能が搭載されている他、「Google 翻訳」の他にも近年は「DeepL」という強力な多言語翻訳ツール(Webおよびアプリ)も登場しています。
自分が欲しいオーディオ機器の仕様や機能の希望を叶えるためにも、まずは一歩ネットで海外に踏み出してみることをお勧めしたいと思います。



DAP比較一覧 2021年6月版 掲載機種一覧 (アルファベット順)



DAP用ケース

外付けスタンド (サイズが合えばDAP用にも…)

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