ここ数年、このブログはオーディオ機器のレビューやオーディオ関係の記事が大半を占めていますが、先日あることを機に「オーディオ」への関わり方を方向転換し、「普通の人」と同様にオーディオを楽しむことにしました。
一体何を言っているんだ?という話ですが、こんな話です。
ここ数年の自分の「オーディオ」に対する見方や考え方
カセットテープ時代のWalkmanでオーディオに目覚め、学生時代から地元で開催される「オーディオショウ」に足を運んだり、バイトをしては単品コンポーネントオーディオ機器を少しづつ組んでいったり、昔から音楽やオーディオへの関心やこだわりは高かったのですが、仕事が忙しくなったり転職したり引越したりで、しばらくブランクの期間がありました。
そんな中で一つの転機になったのは2013年に過労とストレスによるうつ発症での自宅療養開始。リハビリを兼ねて書いていたこのブログの記事の一つが、予想外に反響があったのをきっかけにオーディオ熱が再燃しました。
当時は「ちょっとしたオーディオ機器や工夫で音楽をより高音質でより楽しめる」というオーディオの楽しさを少しでも多くの人に知ってもらえれば、と「人に薦めたいオーディオ機器」という視点がメインで、イヤホン・ヘッドホンや USB DAC、アンプなどを探したり、ブログで紹介したりしていました。
その根底には、自分がオーディオを今後も楽しみ続けるためには、日本の「オーディオ市場」が今後も存続している必要があり、そのために「オーディオファンの人口」が増えてその裾野を広がることに、微力ながらも貢献したいという想いもありました。
自分は日本の音楽市場でもオーディオ市場でも「マノリティ」だった
自分の音楽の好みは、特にコンポーネントオーディオで音楽を聴くようになってから、機器の性能を発揮できるような「音源音質のよさ」を重視するようになり、日本のややマイナーな音質の優れたアーティストや、主に海外アーティストの音楽を中心に聴いており、日本や海外のヒットチャートに挙がるような「流行りの曲」はごく一部を除いてほとんど聴いていません。
思えば、「音質の良いオーディオ機器を探し求める」より先に「音質の良い音源やアーティスト、音楽ジャンルを探し求める」をしてしまったために、そこそこのオーディオ環境で割と満足してしまっている…
— 森Azalush (@align_centre) December 25, 2018
邦楽をほとんど聴かなくなった、いくつかある理由のうち比較的大きな一つw
しかし、人に薦めるからには日本で流行っている音楽の音を知らないといけない、とCDを借りたり試しに音源を買ってみたりして実際に聴いてみた他、スペクトログラムなどで定量的に分析したり、なぜそういう音になっているのか?を調べたり考察したりしていました。
とういのも、日本の流行りの音楽の音質があまりにも自分が普段聴く音楽の音質とかけ離れていたためです。
日本のメジャーな音楽の音質が特異な原因を調べるにつれ、浮かび上がってきた絶望的な現状
しかし、最近になってオーディオ界隈だけでなく、日本のオーディオ業界が大きく依存する「日本の音楽業界」の現状や日本の音楽制作関係者の方々の見解を Twitter などで見聞きする機会が増え、「日本のメジャーなポピュラー音楽の音質は海外と比べて特異すぎるのでは?」という、20年近く前から感じていたことを裏付けるような証言や音源が数多く集まってきました。
日本独自の「重低音」の謎。
— 森Azalush (@align_centre) January 31, 2021
バンド構成の音楽(特にJ-POP/ロック)はナローレンジなので、オーディオメーカーがそれだけに特化して製品をチューニングしてしまうと、EDMや海外の音楽は聴けたものではなくなることが多い。
あと、この図でわかるように重低音→EDMに合うという誤解もなんとかしてほしい… https://t.co/Rw7WjkS9UQ pic.twitter.com/h3eWqC9PMT
↑これはほんの一例で、これまでに自分が立てた仮説や得られた証言の数々はまた別の機会に。
「自分の音楽や音に対する感覚」が日本ではマイノリティすぎた
そうしたことを積み重ねていくにつれ、次第に「自分が人に薦めたいと思うオーディオ機器」が、少なくとも「日本のポピュラー音楽を中心に聴く日本国内の大多数の人々」にとっては好まれにくい状況になっているのでは?という疑念と、それを裏付ける事象に多く気づくようになりました。
そして最終的に、「自分の音や音楽に対する感覚では日本の大多数の人々に”薦める”ようなことはできない」と決定づける出来事を目の当たりにしたのを機に、今までの視点に見切りをつけ、自分のオーディオへの関わり方を方向転換しました。
自分が日本のポータブルオーディオや日本のポピュラー音楽に完全に見切りをつける最大のきっかけとなった機種。
— 森Azalush (@align_centre) June 26, 2021
これがいまだに売れていたりVGP受賞したりしてる時点で、もう自分にはこの世界で趣味やるのはムリだと悟った。気づくのが遅すぎた。https://t.co/1fosqDcLYI https://t.co/glTgysEPes
「人に薦める」のはあきらめ「自分が愉しむ」ことに徹する普通の人に
これまでは、多くの人が手を伸ばしやすい低価格帯〜中級クラス機を中心に「人に薦められそうな機種を探すために」、ポータブルオーディオ界隈で人気があったり「定番」とされる機種はどんな音なのか「リファレンス」として知っておかなければいけないだろう、という観点から試聴したり、テストや実験をするためだけに実機を購入したりしていました。
が、今後はそうした人に薦めるためのリサーチ目的での活動はもうやめて、自分が関心が向くものだけを趣味として楽しむことにしました。本来それが普通なのですが、これまで余計なお節介をしようとしていたようです(苦笑
ここに至るまでに、少なくとも数百万はポータブルオーディオに投資していることが「マネーフォワード ME」により判明していますが💦 実機を自分の環境で試して初めて得られた知見も数多く、地元の名古屋のみならず、「ポタフェス」や「ヘッドフォン祭」といったポータブルオーディオ展示会やオフ会で東京や大阪、仙台、新潟など各地に足を運んで得た情報や、Twitter 上だけでなく行く先々で実際にお会いした数多くの方々との繋がりは、自分にとって大きな支えでもあり資産でもあり、そのおかげで今の自分があると言えるのも確かです。
注:自分の「オーディオへの関わり方」を方向転換しただけで、音楽とオーディオを愉しむこと自体はこれまでと変わりありません。
もう一つの大きなきっかけ:日本の情報源はまだ紙媒体が優位
ポータブルオーディオ機器に関しては、ここ数年でほぼ中国メーカー製品が市場の大部分を占めるようになり、最新情報を得るために「Head-Fi」など主に海外の情報源を参照するようになりました。
さらに、2年程前からは中国のソーシャルメディア「微博(Weibo)」も利用し始め、各メーカーの公式アカウントや中の人が日々発信する生の情報を情報源とするようになりました。
スマホアプリの「微博国際版(Weibo Internatinal)」には翻訳機能が搭載されている他、日本語と近い意味で使われる漢字もあり、中国語で書かれていても内容を理解するのにそれほど障壁はありませんでした。 (スラングの理解には手こずりましたがw、「中⇔英」の機械翻訳の精度が非常に高いため、オーディオ専門用語の対応関係さえわかればほぼ類推できます)
本国でもネット上でも未発表の機種やレビューが「日本の紙媒体にのみ」載っている?!
コロナ禍で、日本では「ポタフェス」や「ヘッドフォン祭」などの展示会が全て開催されなかったこともあり、未発表の最新機種の情報は2020年の5月頃には展示会を再開した中国や、海外の情報源で知ることがほとんどとなっていました。
日本ではポータブルオーディオの展示会が開催されない代わりに「オンラインイベント」として YouTube でライブ配信などをしていましたが、従来の「展示会」に求めたりそこで得ていたものとは全く違うもので、自分にとっては見る価値がゼロに等しいものばかりでほとんど見てもいません。
しかしある時気づきました。従来の「展示会」に求めていたものは、日本では「紙媒体にだけ」載っていました。
ヘッドホン/ポータブルオーディオ情報は、オンライン展示会よりも、この雑誌の方が圧倒的に詳しいし、代理店がネットでは未発表の機種も載ってて情報早いし、これを抜粋して紹介するネットイベントで十分なんではという気が。
— 森Azalush (@align_centre) May 26, 2021
あと、誌名が英文なのにAmazonで英文で検索してもこの号が出てこない。 https://t.co/Tddp8XLtGu pic.twitter.com/o7UtFsCuSH
このMOOKは Amazon に Kindle 版があり、すぐに購入して読めたのでまだ良かったのですが、その後に起きた次の出来事で、これまで自分がしていたことがバカバカしくなって、一気に関心が失せました。
それは、たまたま自分が刊行されていることに全く気づかなかった (だけのことですが)、日本の「紙媒体のみ」のMOOKを、中国のメーカーが入手して公式微博で紹介していたことでその存在を初めて知る、という。しかもこのMOOK、電子版はなく「紙」のみ。
あれ?この本、Kindle版はないのか。https://t.co/e6FUFvIoG3
— 森Azalush (@align_centre) July 10, 2021
WeiboでFiiO公式が取り上げて喜んでるけど…https://t.co/oKOL22iWVf
先日の「PREMIUM HEADPHONE GUIDE」といい日本ではこのままずっと、田舎の書店には売ってない紙媒体でのみ情報先行公開とか、都市部&オフライン中心のままなのかな。 https://t.co/wLhxVNMWvd pic.twitter.com/WpIKypacFU
実はこれに気づいた翌日に、ポータブルオーディオ専門店として最寄りの「eイヤホン名古屋大須店」にて、ここに掲載されている「FiiO M11 Plus LTD」や、中国と日本で世界同時初公開の「HiBy Music RS6」の実機プロトタイプの試聴会があり、とても楽しみにしていたのですが、ひねくれ者なので、それに行くことすらもう無駄に思えてしまい行くのを取りやめました。
"THE HEADPHONE BOOK" と英文書名なのに日本語カタカナで検索しないと出てこなかったり、日本の音楽系は完全スルーしてるから音楽出版社のムックとか出てても気づかないし、ネットで必死に調べてた事がこの「紙媒体」にはすでに載ってたり、バカバカしくなって一気に冷めた。https://t.co/k2txhQoGOg
— 森Azalush (@align_centre) July 10, 2021
ネット上で唯一のホットな情報源でもある、日本の代理店によるブランド公式 Twitter アカウントも公式Webサイトもありますが、なぜかこのムックに新機種の詳細なレビューが掲載されていることについては何も告知はなく。
コロナ禍で鮮明になった、日本のオーディオ界隈のオフライン優位と首都圏一極化
そんなこんなで、「誰かのために」オーディオ関連情報を発信することからは一線を退き、情報収集も「自分が個人的に関心を持つものだけ」に、試聴したりするのも「自分が気になったり欲しいと思える機種だけ」に絞ることで、気は楽になりました。
コロナ禍で中国や海外の動きと日本の動きを両方見ている中で、日本では次のような点がより鮮明になったように感じます。
- 「オフライン」の展示会や紙媒体、実店舗に偏重しすぎている
- 展示会がなくなっても、首都圏に試聴機が集中したり首都圏店舗のローカル情報が中心に
従来「オフライン」では提供されていた情報をオンラインで形を変えて、あるいはオンラインで告知したり、他の地域に融通を利かすということがほとんどできない体制・体質のまま、変わる/変える気配がなさそうだということもはっきりしてきました。こうしたことも、ポータブルオーディオへの関心を失わせるには十分でした。
コロナ禍で機会や情報が有効な代替なく断絶したことで、ポータブルオーディオの世界からフェードアウトした方もいるのではないでしょうか。
「商品」と「市場」が大きく関係する趣味に共通のことかもしれませんが、流れてくる「話題」や共通の趣味をもつ「友人」が身の周りから少なくなっていくと、関心を失いやすい気がします。「〇〇友達」がいると頻繁に話題に上がり関心が維持されますが、急にそこから離れたりすると、ほんの些細なきっかけで情熱が薄れてやめてしまったり。
首都圏在住者以外は日本国内の情報を追うことにあまり意味がなくなった
今は海外のECストアで購入して個人輸入する敷居が下がり、首都圏在住者以外にとっては、日本のオンラインストアで買うか?海外のオンラインストアで買うか?の差がほとんどなくなりつつあるような気がします。コロナ禍に半導体不足と部品調達の遅れが加わって、これまでになく「日本で売る商品が足りない」状況もその流れを後押しする形になっているのかもしれません。
おそらく日本のポータブルオーディオ機器の売り上げの大部分は首都圏で占められているでしょうから、商売上は首都圏に集中させることが理にかなっているのかもしれませんが、今の状況ではその傾向がますます加速するような気がします。
例えば、昨年10月に発売された Austrian Audio の Hi-X シリーズのヘッドホンは、もうじき国内発売から1年経ちますが、各楽器店や販売店の試聴機が東京都内から外に出た気配がありません。
当時とても話題になって気になっていたのですが、今はもう海外ではこのシリーズ新機種も出てきて、日本でこのブランドの製品が発売されていたことは知らなかったことにしようかと。
海外では Hi-X65 もリリースされた Austrian Audio Hi-X シリーズ、X55 と X50 は「半年以上前」に発売されているけど、未だに試聴機が全て「東京都内のみ」で首都圏外では無試聴購入しか…
— 森Azalush (@align_centre) May 22, 2021
結構話題の機種だけど、緊急事態宣言明け頃には、楽器店やeイヤホン等で試聴機の融通等なんとかならないかな… https://t.co/UAQ9B03CFt pic.twitter.com/vEeRFA0dQi
これは極端な例ですが、これと似たような状況になっている機種は他にも数多くあったりして、最近そうしたケースに頻繁に遭遇するので、面倒になり疲れました。