前回の「1. イヤホン・ヘッドホン編」に続き、プレイヤー(ハイレゾDAP)のレポートです。
プレイヤーの試聴には、普段からリファレンス機としているイヤホン Nobe Audio Sage (ケーブルは ORB Clear Force Ultimate φ3.5mm 2pin)を使用しています。(※試聴はすべて3.5mmアンバランス出力のみです)
春のヘッドフォン祭2019 プレイヤー(DAP)編
通称「DAP」と呼ばれるポータブル・ハイレゾ・オーディオプレイヤーは、ヘッドホンやイヤホン以上に年々進化し続けている機器でもあり、毎回イベントでどこのメーカーからどんな新製品が出てくるか話題になります。
今回も、ヘッドフォン祭で初公開(世界初公開/本邦初公開)となるDAPがいくつかあり、試聴待ちの長蛇の列ができていました。
Astell&Kern KANN CUBE
写真左:"KANN CUBE" 右:"KANN"(私物)
ヘッドフォン祭の直前に突然発表されたDAP。
個人的にも Astell&Kern KANN の現行機を普段使っており、今回のヘッドフォン祭でもイヤホン・ヘッドホンの試聴に使用していますが、もはや製品コンセプトからして別物のような気がします。
見た目の第一印象は、某大型アイスモナカ「モ○王」でしたが、実物はそれよりもずっと大きかった…(笑)
音を聴いてみると、現行機のKANNとは全く別物。おそろしく安定感のある音で、繊細緻密で空間の立体感が限りなく据置機レベル。
事前にキャッチしていた情報から、スペック比較を作っていたのですが、重さが「約500g」と現行KANNの約2倍。半ば「持ち運べる据置機」といった雰囲気です。他にも、Mini XLR バランス伝送出力端子が搭載されていたりと、プロシューマー向けを意識したような構成にもなっています。
似たような「持ち運べる据置機」というと、Sony DMP-Z1 という、天板にWalkmanを埋め込んだような90万以上する機種がありますが、実際に試聴してみると、筐体や大きなツマミやボタンの割に小さな画面でのタッチ操作が面倒で、ハードウェアのデザインと使い勝手のデザインにギクシャク感があったりしてソニーらしくない感じもします。
Sony DMP-Z1(オーディオフェスタイン名古屋2019にて)
KANN CUBE の場合は、Astell&Kern 製のDAP全機種共通で使える「AK CONNECT」というWi-Fi経由で本体のリモートコントロールからDLNA再生のコントロールまでできるスマホアプリが用意されているので、据置機として使う場合も操作性に優れているのは大きなポイントでしょう。
このクラスになると、ポータブルDAP同士よりは据置機と聴き比べをしてみたくなります。
FiiO M5
以前記事にもした、FiiOの3月のイベントで発表された超小型DAP兼Bluetoothレシーバー。
開発中のため現時点では試聴はできなかったものの、Q5sと共に展示されていたということで、国内でも発売されるのはほぼ確実と思われます。(FiiO製品は、日本で発売される製品とされない製品とがあります)
FiiO M5がいかにオーディオ市場にとってインパクトある機種であるかは、前述の記事に記していますので、関心のある方はぜひご一読いただければと思います。
とにかく発売が待ち遠しい、個人的に今一番熱い機種です。
- FiiO M5 || Compact and Versatile Hi-Res Music Player || DAC AK4377/Ingenic X1000E/CSR8675 || Supports SBC/AAC/aptX/aptX-HD/LDAC/HWA || IPS Touch Screen || Wearable || Step Counting || 2-Way Type-C || USB DAC || USB Audio Out || Coaxial Out || Recording | Headphone Reviews and Discussion - Head-Fi.org
- FiiO Music Player--Born for Music
- Fiio Japan – High-Res Audio Products | FiiO Electronics
FiiO M11
この機種も同じく、FiiOの3月の発表会で発表された新製品。こちらは発売も近いようで、実機での試聴ができました。
3.5mmアンバランス出力で少ししか試聴できていませんが、パワーがあって包容力のあるような音で、やや暖色傾向に感じました。
FiiO M11は、ヘッドホン出力として、3.5mm端子の他に、バランス出力端子として現在のデファクトスタンダードとなっている、φ4.4mm5極とφ2.5mm4極の両方を搭載し、今のハイレゾDAPに考えられるほぼ全ての機能が入ったような機種です。かつ電源とアンプ部にもこだわっているようで、それはその音質からも伺えます。
この内容と音質だと、1、2年前の感覚なら10万円はするだろうな…と思える所、なんと5万円台になりそうとのこと!
ラインナップ上は、従来の FiiO X5 3rd と X7 Mark II の間に位置し、一応は X5 3rd の後継機とのこと。さらに、X7 Mark II の後継となるフラッグシップ機も開発中だとか…
参考までに、FiiOの現行機と現在までに発表されているDAPおよびBluetoothレシーバーラインナップを実寸比で並べてみたら、こんな感じになりました。
Shanling M2X, M5s
超小型ハイレゾDAP「Shanling M0」が人気の Shanling からは、日本国内未発売の M5s と、M2s の後継となる M2X が参考出品されていました。
どちらも Wi-Fi を搭載し、DLNAや音楽ストリーミング配信に対応した機種です。裏面には技適マークがすでに印字されていますが、現時点では反応をみた上で日本国内での販売を検討しているようです。
現行の「M2s」は Wi-Fi 非搭載で、これまで日本には Shanling の Wi-Fi 搭載機がなかったので、音楽ストリーミング配信時代に対応する M2X と M5s の国内市場投入が期待されます。
面白いことに、ソニーを始めとする国内主要オーディオメーカーからは、Wi-Fi 機能を搭載したハイレゾDAPがここ何年か出ていない、という状況になっているのも興味深い点です。
- SHANLING - 伊藤屋国際
- M2X Portable Player - Shenzhen Shanling Digital Techno
- M5s Portable Player - Shenzhen Shanling Digital Techno
Cayin N6ii
中国の老舗オーディオメーカー、「Cayin」のDAPは、その音質から根強いファンの多いブランドです。
最近では40万超のハイエンドクラスのDAP、「Cayin N8」および「Cayin N8 brass black」が話題を集めていましたが、Cayin としてはスタンダードクラスとなるこの「N6ii」も、DACとアンプの載ったオーディオボードをまるごと交換できるという攻めた仕様と、N8譲りの重厚感あるデザインで注目を集めている機種です。
標準構成では、AK4497EQ+OPA1622 x4フルバランスのボード(A1)が搭載されており、重量感ある地に足のついた音で、聴きごたえ充分。見た目からの期待を裏切りません。
Cayin は据置真空管アンプの開発で20年もの実績があり、「N6ii」はその音質のみならず、造形も据置機を彷彿とさせる重厚感や高級感、無骨さ溢れたもので、好きな人には堪らないものになりそうです。
- Portable HIFI-PRODUCTS Cayin
- Cayin N6ii, Unlimited Possibilities: a fully modularized smart DAP | Headphone Reviews and Discussion - Head-Fi.org
- cayin | kopek
プレイヤー(ハイレゾDAP)編雑感
当初はプレイヤーとヘッドフォンアンプ、その他もまとめて記事にする予定でしたが、あまり試聴していないつもりだったDAPだけで予想より量があったので、今回は「プレイヤー(DAP)編」としました。(実際、試聴できていない機種が山のようにあるのですが…)
DACスペック競争が一段落して、オーディオの基本に忠実に
個人的には、ハイレゾDAPは特にポータブルオーディオの裾野を広げるエントリークラスの機種に注目しており、実はハイエンド機にはそれほど注目していないのですが、DACチップのスペック上はほぼ頭打ちになってきた中で、各メーカーとも電源部分やアナログ回路部分にこれまで以上に力を入れている印象があります。
電源部分が強化されると、音の「安定感」がぐっと増して見通しもよくなるので、ある意味スペック競争が一段落したことで、オーディオとしての基本に忠実に、チップ依存でない本来の音質での戦いがより一層高まってきたのかもしれません。
ストリーミング対応は変化のさなか
そして、今後のポータブルオーディオ市場を左右するかもしれない「音楽ストリーミング配信」への対応ですが、力を入れているメーカーとそうでないメーカーに二分されてきた感があります。
折しも、Google の戦略で「Google Play サービス」が提供される Android のバージョンが引き上げられ、主に旧バージョンをカスタマイズして搭載しているDAPが多いために、アプリのインストールが簡単に行えないという課題が表出し各社工夫を凝らしている過渡期ですが、今年〜来年にかけてどういった動きになるのか注目です。
国内メーカーは特に動きなし?
今回、ひょっとしたら何かあるかな?と思っていた国内メーカーですが、DAPに関しては特に動きがなくやや拍子抜けでした。
特に期待しているのがソニーの Walkman シリーズですが、驚くべきことに最新機種でさえ Wi-Fi 機能を搭載しておらず、スマホからリモートコントロールするアプリもなく、韓国・中国メーカー製DAPの方がある意味「ソニーらしく」、機能面では数世代前の機種のような状態になっています。
エントリー機「A50シリーズ」の後継となると「A60シリーズ」か?となりますが、A30、A40、A50と同じ筐体でマイナーチェンジを繰り返すのみで、過去に「A600シリーズ」があったので、新型番に一新してフルモデルチェンジしてもいいのでは?と思ってしまいます。
ZXシリーズもそろそろ何か出てきてもよさそうな気もしますが、ソニー独自のウォークマン端子「WM-PORT」(あまり評判がよくない)を廃止するとしたら、ラインナップ一斉にモデルチェンジという可能性もあったりして?
2019年、2020年のポータブルオーディオ事情はどう変わるのか、おそらく今まで以上に変化する部分と変わらない部分の差が開くのではないか、という気がしていますが、スマホ市場とも連動している面もあるので、引き続き動向に注目です。
次回は、残りのヘッドホンアンプやその他諸々をごちゃっと紹介する予定です…
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