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思索と探索のクロッキー帳。オーディオや音楽の話題、レビューなども。

ハイレゾDAP比較一覧 2021年1月版 〜コロナ禍にDAC工場火災と波瀾に満ちた2020年のポータブルオーディオ業界、2021年も目が離せない!

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受難に次ぐ受難の2020年のオーディオ業界の中も、新機種が続々と

波瀾の2020年にリリースされたハイレゾDAP(Digital Audio Player)は、その多くが新型コロナウイルスの影響により生産や開発が数ヶ月遅れるなどして、夏から年末にかけても新機種の発表やリリースが相次ぎましたが、展示会は中国・台湾以外では開催できない状況は依然変わらず。各メーカーや各国の代理店、販売店などは、発売前の新製品の魅力をいかにエンドユーザーに届けるかの模索や、感染対策が行われる中での生産数や流通、在庫の確保などの苦心が続きました。

更には2020年10月、DAPはもとより数多くのデジタルオーディオ機器に採用されているAKM製DACを製造している「旭化成エレクトロニクス延岡工場」の火災という事態が発生。定番ハイエンドDACの「AK4499」「AK4497」を始め、AKM製DACを採用する予定だったDAPDAC/AMP製品のリリースが大幅に延期を余儀なくされるなど、かつてない受難の年となりました。

前回の2020年9月版の時点では想像すらできなかった、AKM工場火災の影響が徐々に明るみになってくる中、2020年第4四半期は奇しくもその影響を受けなかった独創的な新機種が相次いでリリース・発表され(その裏では発表できなかった機種もきっと多くあったのではと…)、中国や台湾では各地で大きな展示会も開催されるなど常に話題に事欠かくことはなく、ハイレゾDAPはさらにラインナップが充実する結果となりました。

そして今回、2021年1月上旬の現時点で発表および中国では先行して発売開始されている新機種に加え、前回掲載しきれなかった機種も含めた全74機種(バリエーションを除く)の本体サイズを実寸比でスペックと共に比較した「ハイレゾDAP比較一覧」を2020年1月時点の最新版に更新し公開しました。機種数が増えたため前回より横長の画像になっています…

ハイレゾDAP比較一覧 2020-01-22 版(PNG画像4枚)

Updated at 2021-1-22 (rev.0)

ENTRY (〜$390/〜約4万円)

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MID-RANGE ($390〜$900/約4万円〜10万円)

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PREMIUM ($900〜$1,700/約10万円〜20万円)

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HIGH-END ($1,700〜/約20万円以上)

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※掲載画像は、各 2500 x 900 pixel のPNG 画像です。

超高解像度版PNG画像 (10,000 x 3600 pixel) ダウンロード

次のいずれかの共有フォルダーからダウンロードできます。(Dropbox, OneDrive とも内容は同一)

注意:DropboxまたはOneDriveのフォルダー画面が開きます。1枚あたり約5MB前後あります。

DAP比較一覧の作成仕様

DAP比較一覧の作成仕様や掲載内容は基本的に前回と同様で、USDでのグローバル価格(MSRP: Maker Suggested Retail Price=メーカー希望小売価格、および海外大手オンライン販売店価格)を基準に、Illustrator編集データ上では実寸で作成し並べています。尚この比較図は日本国外向けにも公開しているため、日本では発売されなかった/されていないモデルも一部含んでいます。
また、Twitter に掲載時に画像添付は4枚までという制約上、便宜的に4つの価格帯に分けています。

  • 各メーカーまたは代理店の公称スペックおよび、公式SNSでの投稿、国内外の販売店等による実測値をもとに、実寸比で作成
  • 左からグローバル価格(USD)順に掲載。
  • 国内販売価格は「価格.com」に掲載の「ヨドバシカメラ」の価格を元に、一部「eイヤホン」と「フジヤエービック」のオンラインストア税込価格(随時変動あり/実店舗店頭価格と異なる場合があります)。

掲載項目

  • メーカー、機種名
  • 本国発売日および現地価格、USD価格(MSRPおよび実売価格)、日本国内発売日および現時点の価格(税込)
  • 実寸の本体正面画像および底面シルエットおよび重量
  • 画面サイズ(インチ)及び横×縦ピクセル
  • 端子位置(3.5mm, 2.5mm, 4.4mm, ラインアウト, S/PDIF(同軸/光), USB, microSDカードスロット)
  • USB DAC 機能及び USB Audio 出力機能の有無
  • 内蔵ストレージメモリ容量及びmicroSD拡張可能上限容量(ファームウェアの更新により変動する場合があります)
  • システム
    ・OS
    ・ビットパーフェクト技術(主にAndroid OS の SRC 回避)
    ・メインSoCおよびメインメモリ容量
    ・CPU×コア数
  • デジタル段
    ・搭載DAC(ch数)×個数
  • アナログ段
    DAC出力のLPF(ローパスフィルター)および電流出力型DACの場合はI/V変換チップ
    ・アンプ/バッファ使用チップまたは技術
    ・ヘッドフォン出力(シングルエンド/バランス)
    S/N比
    ・THD+N(全高調波歪+ノイズ)
    ・出力インピーダンス
  • Wi-Fi 対応規格
  • Bluetooth A2DP 送信コーデック/受信コーデック(ファームウェアの更新により変更される場合があります)
    ※"HWA" は「ハイレゾ認証」と同様の認証名のため、今回からはコーデック名 "LHDC" として記載。
    ※Hiby Music 独自規格 "UAT" はA2DPプロファイルに含まれないため現時点では未掲載です。
  • バッテリー容量および高速充電対応規格
  • 連続再生時間(メーカー公称値/条件により変動するためおおよその目安)

今回注目の新機種

注目の新機種 その1:「iBasso DX300」〜iBasso の新フラッグシップ

昨年2020年9月下旬に、本体上部シルエットのティザー画像が iBasso 公式Weiboに突如現れ、12月28日になんと iBasso Audio 社の日本の代理店、(株)MUSINのライブ配信で世界初公開となった、iBasso の新フラッグシップ機が「iBasso DX300」です。

中国では先行して今年2021年1月6日に発売され、日本でも1月29日に発売となります。

DAP比較一覧の中でもひときわ目立つこの機種、これまでのDAPの常識を覆すような特徴をいくつも備え異彩を放っています。
その大きさに賛否はありますが、見た目も大きさも全画面の高精細液晶パネルもSoCもほぼスマホと同等というスペックで、他のDAPと比べて圧倒的な高速処理が期待できます。

さらに、OSやアプリの処理を行うメインCPUの負荷を下げ、オーディオ信号処理をマスタークロックに直結した FPGAプログラマブルな専用LSI)が担う、同社が「FPGA-Master」と呼ぶシステム構成を採用し高品位なオーディオ信号処理を行うほか、DACは DX160 他同社の他の製品にも採用実績のある Cirrus Logic 社のフラッグシップDAC「CS43198」を左右にそれぞれ2基づつ計4基、計8ch 構成で搭載するなど、これまでにないアプローチの設計思想が伺えます。

オーディオ機器で重要な要素である電源も、昨年999台限定で製造・販売されたモンスターDAP「iBasso DX220 MAX」に採用したアナログ系/デジタル系でそれぞれ独立したバッテリーを搭載し電源供給する特許技術を受け継ぐなど、iBasso のオーディオ技術の集大成+将来性を見越した構成になっています。

また、アンプモジュールが交換可能という iBasso の DX150 / DX200 / DX220 で好評の「拡張性・発展性」を引き継ぎ(ただしアンプモジュールは新設計で従来モジュールとの互換はなし)、今後のアンプモジュールの展開も期待できそうです。
標準搭載のアンプモジュール「AMP11」も「AMP8」をベースに発展させたフルディスクリートヘッドホンアンプで、「アンプと電源のiBasso」を体現する機種になっています。

注目の新機種 その2:「Shanling M3X」〜 ほぼミニM8 〜

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日本国内発売時期は2020年1月20日の現時点では未定ですが、現在「FiiO M9」の生産終了で空白となっている、SonyWalkman Aシリーズなどが並ぶ、エントリークラスでも実力派の価格帯に投入される新機種で、CPUを含むメインSoCはフラッグシップの Shanling M8 とほぼ同じ性能で、DACにはポータブルDAPとしては初採用となる、ESS社の「ES9219C」を左右デュアル構成で搭載しています。

この「ES9219C」というDACは、小型DAPや小型USB DACなどの定番になっている「ES9218P」の上位後継となるヘッドホンアンプ内蔵DACチップで、MQAのハードウェアレンダラーを内蔵しています。Shnaling M3X ではCPUの負荷を軽減してアプリ側のMQAコアデコード+DACでのMQAレンダリングでMQA形式のフルデコードが可能となっています。

さらに、「ES9219C」は消費電力が「ES9218P」の半分近くに抑えられていることもあってか、通常の 3.5mm シングルエンド出力で連続再生時間が最大約23時間、4.4mmバランス出力でも約19時間という、ハイレゾDAPの中ではかなりバッテリー持続時間が長く、手のひらに載るコンパクトなサイズとワイドなディスプレイも相まって、個人的にも注目の機種です。

注目の新機種 その3:「THE NEW HiBy R6 2020」〜ほぼミニR8〜

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中国では2020年11月11日に発売され、日本国内発売時期は現時点では2020年2月予定の新機種。
その音質に非常に高い評価を得ている2019年に国内発売された前モデル「HiBy R6 Pro」から比べると、

  • DAC は ES9028Q2M から ES9038Q2M に
  • SoC は Snapdragon 425 から Snapdragon 660 に
  • OS は Android 8.1 からAndroid 9.0 に

それぞれアップデートするなど正統進化している他、フラッグシップ機「HiBy R8」と共通のデザインランゲージのシャープでソリッドなフォルムに一新し、完全リニューアル機として "THE NEW HiBy R6" と呼ばれています。(既存の機種「R6」と区別するために便宜上「R6 2020」と表記する海外の販売店なども多いようで、比較一覧には両方併記としています)

その他、電源をDACのローパスフィルター(LPF)&ライン出力とヘッドホン出力とで分離独立供給する構成や、DACのローパスフィルターの変更、4.4mm バランス出力のラインアウトが独立して搭載されるなど、フラッグシップ機「R8」との共通点も随所に見られ、ラインアウトのクオリティも注目したいポイントです。
新しく生まれ変わった THE NEW HiBy R6、今も尚定評あるサウンドの R6 Pro からどう進化したのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

iBasso DX300 はなぜスマホのように大きいのか?

ネットで iBasso DX300 についての内外の感想やレビューなどを見ると、国を問わずその大きさが「大きすぎるのでは?」というコメントをよく見かけます。なぜ、DX300はスマホとほぼ同じというサイズになったのか? そのヒントは最近のポータブルオーディオ産業およびスマートフォン産業のサプライチェーンの構造にあるのではと推測しています。

スマートフォン市場より桁違いに小さなポータブルオーディオ市場共通の悩み

ポータブルオーディオプレイヤーという非常に小さな市場の製品が共通して抱える問題に、高精細高画質なタッチディスプレイとスマホ並みに高速なCPUを採用したSoCの供給を受けることが難しい、というものがあるようです。

世の中はDAPと比べて桁違いの出荷量のスマートフォン向け部品が多く作られて流通し、小型のDAPのためにスマートフォンと同じような高画質なタッチパネルを供給するディスプレイベンダーは非常に限られている可能性が高い点があげられます。ディスプレイベンダーからDAPの生産予定数に必要な数のパネルを仕入れようとしても、大抵はスマホなど大きな市場向けがメインのベンダーが定めるMOQ(Minimum Order Quantity: 最小発注数)に満たないことは想像に難くありません。

また、高速な CPU を搭載した SoC も、そう簡単に市場としては小さなポータブルオーディオ機器メーカー向けに提供してもらえるわけではなく、そうした苦労は FiiO の James 社長が微博やFacebook、Head-Fi などで頻繁に語っていることからも推察されます。

ティザー画像とディスプレイサイズから直感的に近いスマホを探したw

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DX300 は当初上半分だけのシルエットと採用するSoCのティザー画像のみ公開され、大きさを含めて不明でしたが、11月になって6.5インチのディスプレイを搭載することが判明。6.5インチというサイズのディスプレイは iPhone 11 Pro Max と同じで、大きめのスマホで使われるサイズです。
iBasso は DX160 で 1080×1920 pixel という超高解像度のディスプレイを採用していたことから、それを下回ることはないであろうと推測し、その条件に該当するスマートフォンGSMArena で検索すると、6.5inch, 1080×2340 pixel の機種がサイズ的に近いと判明。

当初、ここで見つけた HTC Desire 20 pro という機種とティザー画像をベースにサイズを推測して2020年11月版のDAP比較一覧では仮で掲載していました。

実は本当にスマートフォンをベースにしたDAPだったりして?!

そして、DX300 が正式に発表されて驚きました。
外観もほぼスマートフォンですが、なんと「iBasso DX300 の縦横寸法が HTC Desire 20 pro と同じ」だけでなく、搭載メモリや対応ワイヤレス規格などあらゆるスペック面で、iBasso DX300 と HTC Desire 20 pro の共通点が非常に多いこと…

中国のスマートフォンはその多くが「ODMメーカー」により開発され、各スマートフォンベンダーはそれを元にカスタマイズしていることが多いとも聞きます。ひょっとすると、DX300 のディスプレイとベース基板は HTC Desire 20 pro に採用されたものと同じかそれに近いものだったのではないか?とも思えてきます。

DX160の教訓からか、部品の安定供給を重視する路線に?

iBasso は「DX160」を 2019年に発売後、当初シャープからのディスプレイの供給を受けていたのが、その生産が終了してしまい、途中で供給ベンダーをJDIに切り替えて、翌年「DX160 2020 version」 として再発売した苦い経験をしています。そうしたことから、製品に使用する部品の供給安定性を重視し、将来にわたって安定した供給が見込めるスマートフォン用のディスプレイを採用したのではないか?という推測もできそうです。

DX300 はDACCirrus Logic 製の「CS43198」を採用することが昨年夏頃の段階で決まっていたようで、奇しくも昨年秋のAKMの工場火災の影響を免れたのは本当に幸運でした。

ユーザーは普段スマートフォンを使い慣れているため、DAPにも同様の画面の精細さや静電容量式タッチパネルの反応のよさ、処理の高速さを求めがちですが、現時点でそれを最大限実現しようとした結果が iBasso DX300 のあの大きさなのかもしれません。スペックや処理速度はスマホと同等ですが、従来のDAPと比較すると「デカイ」笑。

DAP用のディスプレイは今後さらに集約されていくか?

複数のDAP間でディスプレイサイズを共通にすると、UIの共通化など開発上も、部品単価としても最終製品の価格面でユーザーにもメリットがありそうです。
例えば、Astell&Kern のDAPはディスプレイサイズを調べると複数の機種で集約していることがわかります。

さらに、DAPメーカー各社間でも採用するディスプレイが共通化されてくると、使い勝手の面でユーザーにメリットになることもあるかもしれません。

「Shanling M3X」も、実は正式発表前に採用ディスプレイのサイズと解像度をコンセプトイラストから概ね予想できていました。 「Shanling M3X」の 4.2inch, 768×1280 pixel というサイズは、実は「Cayin N6ii」のディスプレイと同一サイズ/解像度です。

DAPに使われている小型で高精細なタッチパネルが、他にどんな分野で使われているものなのか、おそらく産業用・業務用機器向けがメインなんじゃないかと思ったりしていますが、市場規模や年間需要、生産数などその界隈には詳しくないので推測の域を出ません。

AKM工場火災の影響はしばらく続く?

先の Head-Fi の記事で FiiO が「AK4497」を搭載した新機種を数量限定で2020年春頃(?)リリースする予定があるとのことですが、AKMのDAC生産工場は、あらゆる分野に使われる半導体部品の一大生産拠点でもあったため、火災の影響は予想以上に広範囲に影響して長引きそうで、2021年のオーディオ業界はどんな様相になるのか、まだまだ予断を許さないようです。

未だパンデミックが収まらない中、DACやADCの勢力図が大きく塗り変わろうとしている2021年、ポータブルオーディオ機器にどんな変化が見られるのか? いままでにない局面を迎え、楽しみでもあり心配でもある1年になりそうです。



DAP比較一覧 2021年1月版 掲載機種一覧 (アルファベット順)



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