今回は、再びREVおじさんからお借りした、サンプル品イヤホンのレビューです。
「Echobox」というメーカーは、シアトルとワシントン湖を隔てた隣町、ベルビューに拠点を置き、「音楽好きが設立した音楽好きのための会社」として、クラウドファンディングなどで資金を調達しながら、オーディオ製品を開発・製造している新しい会社です。
そして、その第1作目となるのが、2015年秋に発売された「Finder X1」というイヤホンです。
チタン削り出しの美しく強靭なハウジング
「Finder X1」を特徴づけているのは、一度見たら忘れない、その美しいハウジングでしょう。個人的にも Echobox という名前を聞いて思い浮かべるのはこの Finder X1 のハウジングで、気になっているイヤホンの1つです。
金属製イヤホンのハウジングは一般的にはアルミニウム合金や真鍮などが多く使われていますが、Finder X1 は、軽量ながら強靭なチタンを採用し、一つ一つ削り出して作られているようです。
The Making of Echobox from Echobox Audio on Vimeo.
Finder X1 のドライバーはダイナミック型。通常ダイナミック型ドライバーのイヤホンには、ドライバの動きをよくしたり、音質のチューニングのために、ハウジングのどこかにドライバーの背圧を抜くための小さな「穴」が空いている事が多いのですが、Finder X1 にはそのよう穴は見当たりません。ひょっとすると、先すぼまり型のハウジング形状で音をコントロールしているのかもしれません。
随所にこだわりが見られる Finder X1
Finder X1 の美しさへのコダワリは、ハウジングのみならず随所に見られます。
例えばプラグ部。ストレート型で、多くのメーカーは単純な円筒形にする所、Finder X1 は旅客機のジェットエンジンを思わせるような樽型の形状をしています。
デザインの犠牲となった部分として、「左右がわかりづらい」という点が挙げられます。
パッと見では、どちらが左でどちらが右かわかりませんが、注意深く見ると、ハウジングの下側に「L」「R」の刻印がある他、ハウジングからケーブルが出ている部分の根本の色が、右が赤、左が黒になっており、さらにケーブルのスライダーの左側に突起がついています。
一度覚えればいいのですが、初めて使うときは戸惑いそうなデザインです。
耳にすっぽり収まり、チタンならではの軽い装着感
Finder X1 を耳に装着してみると、耳にすっぽりとハマりハウジングの先端が少し飛び出るような形で、キレイに収まります。
手で触った感触では、結構飛び出していて宇宙人みたいになっているんじゃないかと心配になりますが、実際にはわずかに出ている程度で、傍から見ても気にならない雰囲気です。
また、チタン製で非常に軽量なため、一度装着すると着けていることを忘れるくらいで、遮音性もよく、イヤホンの中では装着感は非常によい部類です。ケーブルも非常にしなやかで取り回しがよく絡まりにくい素材で、衣服などに触れるタッチノイズも少なめです。
硬質でクッキリはっきりしたサウンドはスマホ向き?
さて、肝心のサウンドはいかに?
一聴して感じるのは、硬質で輪郭のクッキリしたメリハリのあるサウンド。音の空間は狭すぎず広すぎずといった所。
と言っても、これはもともと高音質なハイレゾDAP(Digital Audio Player)で聴いた感想。
これを iPhone 6s のヘッドフォンジャックに挿して聴いてみると、元々の硬質さがすこぶるよい塩梅になり、弦楽器や管楽器もしなやかに鳴らしてくれるようになりました。
ちょうど、iPhone などのスマートフォンの音質を底上げしてくれるような印象で、おそらくそれを狙ったチューニングではないか?とも思えます。
高音質なハイレゾDAPに直挿しで聴くと、音の硬質さとメリハリの強さが際立ちすぎるので、試しに真空管ポータブルヘッドホンアンプ(ALO Audio The Continental V1)を間に介してみたところ、非常に上質な音になり、あらゆるジャンルを気持ちよく聴けるようになりました。
3種類のフィルターで音質をチューニング可能
Finder X1 のもう一つの特徴として、音の出口に装着されたフィルターを交換することで、高音、低音の量をチューニングできる点があります。標準的なバランス重視の「シルバー」の他に、高音を強調した「レッド」、高音を抑えて低音を強調した「ブラック」の各フィルタが付属しています。
一通り試してみましたが、標準の「シルバー」が最もバランスよく、あらゆるジャンルに対応できる印象でした。
また、どのフィルタを装着しても、重低音域はしっかりと出るようになっており、特筆すべきはその歪の少なさです。低音の多い曲を再生しても、低音がぼやけることなくしっかり再生されます。
ドライバーの振動板には、内部歪の非常に少ない「PEEK」素材を採用しているとのことで、この素材のもつ特性が活かされているのでしょうか。
http://www.ensinger.jp/item/peek.html
ただ、1つ気になったのは、超低域が20Hz辺りを境に急にストンと出なくなる点です。
普通の曲では20Hzもの超低域が入っているものはほとんどありませんが、クラブ/ダンスミュージックなどは20Hz前後にも音が入っているものも多く、そうした曲では若干物足りなさを感じます。おそらくこのイヤホン特有の構造によるものだと思いますが、個人的にはちょっと残念な点でした。
スマホで使うイヤホンとしてはハイレベルな逸品
Finder X1 は、総合的に見て、ハイレゾDAPで使うよりはスマホで使ったほうがその特徴が活きるように感じました。また、ハイレゾDAPで使う場合は、メリハリを少し和らげる、真空管やA級動作のアナログヘッドホンアンプを介して聴くのがよさそうです。
逆に、とにかくカリッカリ、シャキシャキの音で聴きたいという場合には、ハイレゾDAPに直挿しで楽しむこともできる、応用範囲の広いイヤホンと言えるかもしれません。
そのデザインと音にビビッと来たら「買い」のイヤホンだと思います。
http://www.e-earphone.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000080195www.e-earphone.jp