今回は代理店さんから試聴機をお借りしたイヤホン「Acoustune HS1004/HS1005」のレビューです。
「Acoustune」は、香港を拠点とするメーカーで、設計を日本で、開発を香港で行い、中国で生産するという国際分業型のメーカーのようで、日本では「日本ディックス」さんが総輸入代理店として販売を行っています。
残念ながら、Webサイト( http://acoustune.com/ )が現在閉鎖されてしまっている(→4月にリニューアルオープンの予定だそうです)ので、商品紹介ページ等が見られませんが、今回お借りした「HS1004」「HS1005」は、オーディオファンの間では人気のある機種としてよく知られています。
HS1004/HS1005 は、上のタイトル画像のように、標準添付される大口径のダブルフランジ型のイヤーピース(イヤーチップ)が特徴的ですが、個人的にこのイヤーピースがどう頑張っても耳に入らず、店頭などで試聴ができずに敬遠していましたが、製品にはそれ以外のタイプのイヤーピースも同梱されているようで、今回試聴用サンプル機をお借りして、ようやくゆっくりと試聴することができました。
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「HS1004」と「HS1005」はそれぞれ前モデル「HS1003」から別方向に進化した製品
「HS1004」「HS1005」という型番を見ると、一見「HS1005」が「HS1004」の後継機かのように思ってしまいがちですが、実はそうではなく、両者の前モデルに当たる「HS1003」からそれぞれ別の方向に進化した製品のようです。
HS1004:
HS1003の基本スペックはそのままに、チューニングを中低域重視(ピアノ、女性ボーカル、低音沈み込みや音場の横幅拡張)に変更HS1005:
HS1003の基本スペックはそのままに、AKバランス出力(Φ2.5mm、4極プラグ)機器へ対応。 シュア掛け専用ケーブル出し。
以上を踏まえ、それぞれ見ていきましょう。
独特な中高域で、邦楽やバンドサウンドと相性が良さそうな「HS1004」
まず HS1004 を先に聴いてみました。
一聴して感じたのは、硬質で空間の広く開放感のある音。そして、独特な中高域の感じ。この「中高域の感じ」はなかなか表現が難しいですが、残響音などの多い中高域の微細な音が抑えられて、大きな音が目立つようなチューニングで、ヴォーカルのリバーヴなどが抑えられるためか、ややデッドな音となり、結果として「ヴォーカルが近い」ように聴こえます。
帯域バランスは高音から低音までバランスよくしっかり出ているので、全体的には好印象なのですが、中高域の独特な感じがやや気になります。しかし、様々な曲を聴いて試しているうちに、どうも J-POP/ROCK などのバンドサウンドとの相性がよいことに気づきました。
個人的な印象として、邦楽やバンドサウンドは、狭い帯域に多数の音が重なるように作られていることが多く、洋楽と比べてのっぺりとした音に聞こえてしまいがちですが、HS1004でそうした曲を聴くと、ヴォーカルが目立つようになり各楽器の音がしっかり聞こえるように感じました。
HS1004が日本のユーザーに多く支持されているのは、そうした背景があるのかもしれません。
一方、HS1004で聴くとどうしても相性がよくない音がありました。それは弦楽器の音。ヴァイオリンを初め、チェロやヴァイオリン、アコースティックギターなどの音が「一体どうしちゃったの?」というほど響きを失ってしまうように感じました。
おそらく、ヴォーカルの件で触れた中高域の微細な響きが抑えられているために、弦楽器の持つ倍音成分がかなり抑えられてしまって響きの豊かさが失われてしまっているのではないかと推測しています。
そういう意味では、HS1004はジャンルを選ぶ機種で、ハマるジャンルにはとてもハマる機種だと感じました。
オールマイティなφ2.5mmバランス出力対応機「HS1005」
次は、HS1003をバランス出力対応化した、HS1005。最初は、音質の比較のためにφ2.5mmバランス→φ3.5mmアンバランス変換アダプターを介して聴いてみました。
こちらも、全体的に硬質で空間に広がりのあるサウンド。かなり好印象です。
HS1005では、HS1004で見られた弦楽器との相性問題もなく、倍音成分豊かに鳴っているようで、先ほど紹介した「川井郁子 - Violin Muse」も非常に気持ちよく聴けます。
また、細かい繊細な音までしっかり分離して聴こえるので、音数の多い曲でも音のシャワーを浴びるように気持ちよく聴ける印象です。
試聴には Astell&Kern AK70 を使用しましたが、HS1005 をバランス出力で聴くと、空間上の音像定位やリアリティがぐっと増し、低域〜超低域の存在感をより感じる音になり、ワイドレンジ感が高まります。特に、録音のよい曲ではその性能をいかんなく発揮してくれます。
総じて、HS1005 は非常に高いレベルの音を聴かせてくれるイヤホン、という印象です。若干お値段は張りますが、これはオススメかもです。
ふと思い出した、より低価格なライバル機
HS1005の硬質かつ繊細なサウンドを聴いていて、ふと音が似ているのではないか?と思い出したイヤホンがありました。
それは、Master & Dynamic ME03 です。
実際に聴き比べてみた所、ME03は硬質で高解像度な音の方向性は似ているものの、よりシルキーで繊細なタッチ。対してHS1005は、アタックの立ち上がりに優れ、より力強さがあります。
HS1005はバランス端子を搭載しているので、比較するなら HS1003 との比較が妥当かもしれませんが、それでも価格差にして約1万円の開きがあるので、Master & Dynamic ME03 のコストパフォーマンスの高さも侮れません。
HS1004とHS1005の音質以外の違い
HS1004 と HS1005 は、それぞれ HS1003 から進化した機種として位置づけられ、3機種とも形状はほぼ同じなのですが、HS1005 だけは、2.5mmバランス端子を採用していること以外に、「Shure掛け」を前提としたデザインに変更されている点が大きく異なります。
どういうことかは、下の写真を見て頂ければ一目瞭然かと思います。
HS1005 はハウジングの形状が HS1004 と上下左右対称になっており、耳の上にケーブルを掛ける「Shure掛け」に特化した機種になっています。ただ、元のハウジング形状がShure掛け用の形状ではないので、やや装着がしにくい印象はあります。
イヤーピースによって音質がかなり変わる
HS1004、HS1005 共に、各種イヤーピースが付属していますが、イヤーピースによってかなり音が変わり、開口径の小さなタイプでは若干こもった音になり、開口径の大きなタイプ(ノズル径と同等のもの)ではこもりもなくストレートに音が耳に入ってくる印象を受けました。
今回試聴したサンプル機には、旧パッケージに同梱されていた「ダブルフランジ型」と「SpinFit」、さらに新パッケージに同梱されている「AET07」と呼ばれる開口型の大きなシリコーンイヤーピースの試作品(同等品?)が添付されていました。
それ以外にも、市販されているイヤーピースもいくつか試してみましたが、一番イヤホンの性能を引き出しているなと感じたのは、開口径の大きな「AET07」と呼ばれるタイプ。また、開口型の大きさで定評ある JVC の「スパイラルドット」も「AET07」に近く好印象でした。
しかし、ネットで HS1004/HS1005 に装着して良い評価をされている方が多い、Finalの「Eタイプ」は、開口径が小さいせいか、音が若干こもって聴こえました。
このあたりは、個々人の音の感じ方や何を重視するかで好みが別れる部分かもしれませんが、イヤーピース(イヤーチップ)の重要性を再認識させられる結果となりました。
尚、「AET07」は単品でも販売されているようです。
使い勝手とコストパフォーマンスを考えると「HS1003」がベスト?
今回お借りしたサンプルには入っていませんが、「HS1003」が「HS1005」と同じ音質であれば、Shure掛けでない通常のカナル型イヤホンとして使える「HS1003」が、使い勝手、コストパフォーマンス共に一番よいのでは?というのが今回の試聴を通した感想です。
しかし、どうも「HS1003」は現時点(2017/3/18)で新品在庫ありで販売されている所がないようで、まだ生産されているのかどうかが気になる所です。
http://www.e-earphone.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000072493&search=HS1003
ちょうど、今回試聴用サンプル機をお借りしたREVおじさんのブログに、HS1003のレビューが掲載されていますので、ご参考に紹介しておきます。