1982年に「コンパクト・ディスク(CD)」の登場によって「デジタル・オーディオ」が一般的なものになり、今や多くの人が iPod やスマホなどで当たり前のように聴いていますが、その仕組や原理についてはあまり考えたりすることはないと思います。
しかし近年「ハイレゾ音源」「ハイレゾ・オーディオ」といった用語や機器がマニアアーリーアダプター層を中心に浸透し始めています。では一体何が「ハイレゾ」なのか? これを理解するには、まずはデジタルオーディオの仕組みを知っておく必要があります。
そこで、今回は音声のデジタル化と「ハイレゾ・オーディオ」とはなんぞや?について簡単にまとめてみようと思います。
音は空気の波
「音」というのは空気の振動であり、波であることは、小学校や中学校の理科で習ったと思います。「アナログレコード」では、この音の波を樹脂製の円盤に溝として刻むことで音を記録していました。
アナログレコードの拡大図 - Gramophone record - Wikipedia, the free encyclopedia
ではCDなどのデジタル・オーディオではどうか?と言うと、基本的にはこの「音の波を記録すること」には変わりありません。まずは実際にちょっと見てみましょう。
デジタル音楽データを見てみる
デジタル音楽データを、オーディオ編集ソフトなどで開くと、たいてい次のような画面が出てきます。上がステレオ音声の左チャンネル、下が右チャンネルですが、ギザギザの上下の振れ幅が大きなところは大きな音、振れ幅の小さなところは小さな音の部分です。
これをもう少し拡大すると…
だいぶ波らしくなってきました。周期の長い波(=低音)と周期の短い波(=高音)が複雑に組み合わさった波になっています。
では、さらに拡大してみましょう。
何やらドットが現れて、折れ線グラフのようになってきました。
そうです、デジタルオーディオは簡単に言えばグラフ用紙に点をプロットするようにして、音の波をデジタルの「値」として記録しているのです。
デジタルオーディオの音質を決める2つの要素
ひとまず次の図を見ていただくと、わかりやすいと思います。
この図が意味するのは、「デジタル化A」よりも「デジタル化B」の方が元のアナログ音声波形に近く、より高音質ということです。ここで2つの用語が出てきましたが、
- 量子化ビット数(=音の大きさを何段階で表すか/単位:bit)
- サンプリング周波数(=音を1秒間に何等分するか/単位:Hz)
さえおさえておけば、ひとまず大丈夫です。上のAとBを比べればわかるように、
- 「量子化ビット数」が大きければ大きいほどより小さな繊細な音を表現でき、
- 「サンプリング周波数」が大きければ大きいほど波長の短い音、つまり高い音が表現できる
という関係になっています。
例えばCDの場合、
- 量子化ビット数:16bit(=2の16乗= 65,536 段階)
- サンプリング周波数:44.1kHz(1秒間を44,100等分)
という仕様が決められています。この数字を実際に再生できる音を表す数字に置き換えると、
- ダイナミックレンジ:96dB(16bit x 6dB = 96dB)
- 再生可能周波数上限:〜約20kHz(44.1kHz ÷ 2 = 22.05 kHz)
となります。人間の可聴範囲はおよそ 20Hz〜20kHz とされているため、それを元に CD の仕様は決められています。(もちろん記録可能容量など他の理由もありますが)
CDは意外に手の込んだことをしている
CDの場合は、上記のようにデジタル化(PCM)した信号をただそのまま記録しているのではなく、ディスクに多少傷がついても欠けた部分を復元できるようにする「エラー訂正符号化」(CIRC)や、ディスクに「ピット」として記録する際に0や1が連続しすぎないように、予め決められたビットパターンに変換(EFM)等の処理を経た上で記録するという、ちょっと手の込んだことをしています。
再生時には概ね記録時の逆の手順になりますが、最近のCDプレイヤーでは、各メーカーが独自にCDの規格上は本来表現できない領域を補完する技術を開発し、より高音質で再生できるようにしているものも多くあり、確実に進化しています。
たかだCDされどCD。こうしてみると、CDデジタルオーディオ規格は、1970年代後半から1980年代に初頭にかけての様々な技術的コスト的制約の中で、よくここまで完成度の高いものが出来たものだと改めて驚かされます。
さてハイレゾ音源とは?
「ハイレゾ」とは "High Resolution" → "High-Res" すなわち「高解像度」を意味する略称です。
高解像度の液晶をハイレゾ液晶と言うように、簡単にいえば「解像度の高い音」ということになりますが、具体的には、先に説明した「量子化ビット数」「サンプリング周波数」が CD よりも高いもの、特に「24bit/96kHz」や「24bit/192kHz」などの音源データ、あるいはそれに対応した再生装置を指して使うことが多いようです。
スペック上の数値で言えば、
- 量子化ビット数「24bit」は、2の24乗、すなわち 16,777,216 段階で音の大きさを表現でき、16bit の CD の 256倍(2の8乗倍)の解像度。
- サンプリング周波数「96kHz」や「192kHz」は、再生可能周波数上限が 48kHz あるいは 96kHz 未満という、人間の可聴域を遥かに超える超高音域まで記録できる。
ということになります。
また、先に示した方眼紙状の図で考えれば、より細かい目の方眼紙にプロットすることになるので、原音に限りなく近いなめらかな波形を記録でき、空気感や質感、臨場感までよりリアルに再現できるのが大きな特徴とされています。
一見いいコトずくめのようですが、懸念点がないわけではありません。
まずひとつは、MP3やAACなどの圧縮された音楽を聴くことが普通になっている昨今において、CD以上の音質を求める人達がどれだけいるか?
もうひとつは、これまで以上にレコーディング機材やエンジニアの腕による差が出てしまうので、制作側が追いつくのか?という点です。
現状でさえ、CD規格をフルに活かしきって収録されているCD自体が少ない上、圧縮音源でもそれなりの再生環境を用意すると、ビックリするほどの高音質で聴くことができます。 (→参考:「USB DAC」があるとPCで音楽を聴くのが何倍も楽しくなる! - Fluffy white croquis)
再生機器類はいずれハイレゾ音源対応になっていくのだろうと予想はされますが、その恩恵を実感できるユーザーがどれだけいるか?果たして制作側がどれだけついてこれるか?がモヤモヤとする感がします。
ただ、何はともあれ、もしハイレゾ音源をハイレゾ・オーディオ機器で聴く機会があれば、是非一度聴いてみてほしいと思います。
次回、デジタルオーディオについてのネタを書く際は MP3などの「圧縮音源」について取り上げてみようと思っています。
追記(2014/4/28):
圧縮音源についての記事を書きました
おまけ
今回「デジタル音楽データを見てみる」の項の画面キャプチャに使った音楽データは、下記からMP3データを無料でダウンロードできます。
この曲は映画『ブレードランナー』のサウンドトラックから「Rachel's Song」を Trance DJ Andy Moor が Remix した美しい曲です。
Vangelis - Rachel's Song (Andy Moor Remix) by djandymoor on SoundCloud
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