white croquis

思索と探索のクロッキー帳。オーディオや音楽の話題、レビューなども。

「愚痴を言うな」は問題解決の放棄?

よく「愚痴を言うな」という言葉を聞いたり書かれているのを見たりする。愚痴は周囲のやる気を削ぎ、何の解決にもならないと結論づけている意見もよく見る。
果たして本当にそうなのだろうか? では、なぜ人は愚痴を言いたい衝動に駆られるのだろうか? さらに言えば、なぜ人間という生物にそのような行動が備わっているのだろうか?


個人的には、人の愚痴を聞いて不愉快になったという記憶があまりない。もちろん自分が愚痴を言うときもあるし、それによって他人を不愉快にしていることもあるだろう(ごめんなさい)。愚痴を言う時、少なくともその人が何らかの問題に直面していて、容易にそれを回避あるいは解決できない状態であることが多い。それゆえ、他の人の愚痴を聞いた時、なんとかその問題を解決できる方法がないか、アドバイスをしたい気持ちになったり実際にすることが多い。


誰かに教わったわけでもなく愚痴を言ってしまうのは、まるで人間にその行動が予めプログラムされているかのようにも思える。愚痴というのは、何らかの問題があることを個人が周囲に向けて発するシグナルではないだろうか?そう考えれば、人間が社会的な生活を営む動物として、必然的に身につけてきた能力と言ってもそう不思議ではない。
愚痴を発する個人にはその問題を解決できなかったとしても、愚痴を言い続けていれば、いつかはその問題を解決できる人の耳に入るかも知れない。同じ愚痴を持つ人が多ければ、よりその確率は高くなるかも知れない。人類の歴史の中で、社会や価値観の大きな変革のきっかけとなっているのは誰かの愚痴(不満)だったのではないだろうか?


「愚痴は何の解決にもならない」と言う人は、おそらくこれまで自分の力で何かを変革するという経験をしたことがないのではないだろうか? 過去に、自分の不満を自分で解決する経験をしていれば、そういう発想自体が出にくい気がする。より大きな問題の解決を経験していれば、よりその傾向は強いだろう。そもそも、「愚痴は何の解決にもならない」と言うこと自体が愚痴だ。
しかし、愚痴を言うということは、少なくとも何らかの「動機」がある状態と言える。
以前、「「動機」がなければ行動は生まれない - white croquis」というエントリーを書いたように、「動機がある状態」は「動機がない状態」に比べ、それによって行動が生み出される可能性が非常に高い状態と言える。愚痴を言うこと自体もそうした動機によって生み出された行動の一つだけれど、それ以外の行動をする動機にもなっているはずだ。ただ、今はその行動の方法を知らないだけのことで。
例えば、組織をマネジメントする立場の人にとって、その組織の構成員が愚痴を言うこと自体は、むしろ歓迎されることではないだろうか。何せ、何もしなくても組織の中に問題点があるというシグナルを発してくれるのだから。その時、適切なアドバイスがあれば、自らその問題を解決していく糸口が見つけられるかもしれない。そこで「愚痴を言うな」と言っては、さらに愚痴が増えるという悪循環になるだけではないだろうか?もったいない話に思える。


ところで、ある人が愚痴を言っているとき、多くの場合、その人が言う通りの問題が生じているわけではなく、その時点では「その人にはそうした問題として見えている」としか言えないということには気をつけなければいけないだろう。単なる勘違いや思いこみによって問題を感じているということも多いからだ。だから、愚痴を言う人にアドバイスをする時は、本人が捉える視点よりも、もう一つ上の視点・次元から問題を捉えなければならない。そこに難しさがあり、愚痴を聞く方も負担に感じて「愚痴を言うな」という回避行動をとってしまうのかもしれない。

つまり、愚痴はその人個人や組織の個別の問題ではなく、その人が「そのように捉えてしまう」状況を引き起こしているという構造の問題ではないだろうか。だから、まずは「なぜその人(あるいは自分)が、そう捉えて不満に感じてしまうのか?」という所から始まり、その人が物事をとらえる枠組み(メンタルモデル)と、実際にその人をとりまく構造の、両方向からのアプローチが必要になる。だから、個人の側にも周囲や組織、社会の側のどちらにも原因がある可能性がある。決して他人事ではない。


誰に教わったわけでもなくついしてしまう行動は、人類の歴史、あるいは一生物種として長い歴史を生き抜いてきた中で身につけた、必然的な行動かも知れない、ということを考えてみてもよいのではないかと思う。


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