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評価グリッド法とパーソナルコンストラクト理論

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以前、「メンタルモデルはいくつ想定すればよいのか?」というエントリーで触れた「メンタルモデル・アプローチ」のように、対象者のメンタルモデルあるいは概念の認知構造を明らかにする実践的な手法として「評価グリッド法」というものがあるのを最近知りました。

ラダーリング法、評価グリッド法、パーソナル・コンストラクト理論(DESIGN IT! w/LOVE)

評価グリッド法とレパートリーグリッド法

この評価グリッド法というのは、心理学者のGeorge Kellyが1955年に提唱した「パーソナルコンストラクト理論」に基づく臨床心理学の技法の総称である「レパートリーグリッド法(Rep Grid または Role Construct Repertory Test (RCRT))」を、建築物の評価など環境心理学の分野で使いやすいように総合評価に関与する部分を抽出したもののようで、当初は「レパートリーグリッド発展手法」と呼ばれていたようです。

「評価グリッド法」誕生の秘密(株式会社オリコム マーケティングフォーラム)

この方法はまず、ある評価対象について評価項目をSD法のような段階的評価や、複数の中からピックアップする方法などで評価してもらい、次に、評価した相手にその理由を質問しながら、どうしてそれがよいか(上位概念の抽出)、あるいはそのためにはどうなっている必要があるか(具体的な下位概念の抽出)を問いかける、「ラダーリング」と呼ばれるインタビュー法で相手の概念・認知構造を明らかにしていくというものようです。つまり相手の概念の抽象度を上げたり下げたりしてメンタルモデルあるいは概念スキーマを探ってゆく方法のようです。これは使えそうです。今までこの名前に出くわさなかったのは不覚でした(笑)

基盤となるパーソナルコンストラクト理論

この評価グリッド法、あるいはレパートリーグリッド法の基盤となっている「パーソナルコンストラクト理論(Personal Construct Theory (PCT)) 」とは、

「人間は、個人に固有の認知構造を持っており、この認知構造によって環境およびそこでのさまざまな出来事を理解し、その結果を予測しようと努めている」

というもので、ちょうど「メンタルモデルはいくつ想定すればよいのか?」で疑問を呈したようにメンタルモデルあるいは概念スキーマが人それぞれ違うのでは?というのと同じような立場の理論のようです。やっぱり誰かがすでに考えているものですね。

Personal Construct Theory [英語](ChangingMind.com by David Straker) George Kelly [英語]

レパートリーグリッド法とその実践法

評価グリッド法が、レパートリーグリッド法のサブセットのようなものであるのなら、レパートリーグリッド法を調べればより深い理解が出来るだろうと思い、調べてみると、 Enquire Within という、レパートリーグリッド・インタビューによって認知地図を作るためのソフトウェアのサイトを見つけました。

Enquire Within [英語](レパートリーグリッド・インタビューツールのサイト)

This site contains a great deal of reference material relating to the repertory grid interview, its underlying theory and the practical application of grid.
このサイトには、パーソナルコンストラクト理論やレパートリーグリッド法、そのインタビュー方法などについて、かなり詳しい解説があります。これに匹敵する日本語の情報源はWeb上では見つけられなかったので、ひとまずは読めない英語をヒーヒー言いながら読んでみるしかなさそうです(笑) しかし、これで少し先に進めそうな気がするので、大きな収穫です。

リスク・コミュニケーションから生まれた「メンタルモデル・アプローチ」

ここでついでに、前回あまり説明しなかった「メンタルモデル・アプローチ」についても触れておきます。 「メンタルモデル・アプローチ」は、(財)電力中央研究所の「メンタルモデル作成マニュアル(PDF)」から知ったのですが、リスクコミュニケーションの分野で生まれたもので、カーネギーメロン大学の研究者らが試行錯誤して作り上げたものだそうです。

「メンタルモデル・アプローチは,専門家と一般の人々のメンタルモデルを図式化し,その比較から提供するべき情報内容を抽出してメッセージ案を作成し,専門家のレビューとプリテストを経て,一般の人々にとって有用な情報提供資料を作成するための一連の手法である.」(「メンタルモデル作成マニュアル」より)

この手法の具体的な手順は、

  1. 専門家のメンタルモデルを作成する
  2. 想定読者のメンタルモデルを作成する
  3. メンタルモデルの比較からメッセージを作成する
  4. メッセージのプリテストを経て完成させる

というもので、次のような特徴があるとしています。

  • 人々の意思決定や認知に影響を及ぼしている知識(誤解や欠如も含む)が分かる
  • 専門家の視点に影響されずに,一般の人々の視点から提供すべき情報内容を抽出することができる
  • 専門家と一般の人々の知識内容や量,リスク問題の考え方の相違の全体像を視覚的に示すことができる

メンタルモデル・アプローチは色々応用ができそう

電力中央研究所がこの手法に着目していたのは(プロジェクトは2005年に終了している模様)、原子力技術の開発・利用を行う電力事業者と住民とのリスクコミュニケーションという目的のものでしたが、このコンセプトは、例えばマニュアルを作る際に開発者とユーザーのギャップを埋めることや、提案型/サービス提供型の案件で、提案・提供する側のメンタルモデルと相手側のメンタルモデルを想定してギャップを見極める際にも使えそうです。

ただ、「メンタルモデル作成マニュアル」の中で例として示されている質問法がちょっと「?」な感じなのと、そのままのやり方では用途や条件がかなり限られているとしているのが残念なところですが、メンタルモデルの想定に「評価グリッド法」や「レパートリーグリッド法」を使うことでもう少し応用範囲が広がるんじゃないかという気がします。
何よりも、「メンタルモデル・アプローチ」というネーミングは通りが良さそうなので、リスクコミュニケーション分野に限らず、他の分野への応用も期待したいところです。

(goo blogより移植)

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