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メンタルモデルはいくつ想定すればよいのか?

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「メンタルモデル」はいくつ想定すればよいのだろうか?

註:「メンタルモデル」という用語は分野により様々な定義や用法がありますが、ここでは広義に「頭の中の心や思考のモデル」を便宜上そう呼ぶことにします。

認知心理学や情報デザイン、テクニカルライティングなどの分野では、人が物事(例えば装置の使い方)を理解するために頭(心)の中につくりだす概念のモデルを「メンタルモデル」と呼んでいる。(「使いやすさ研究所」の解説がわかりやすい)

例えば、マニュアルや説明のためのコンテンツを作る際には、それを利用あるいは受け取る人のメンタルモデルを想定し、メンタルモデルをコントロールするようにして説明の順番や構成を考えて書いたり作ったりしていく。「メンタルモデルを想定する」と言うと仰々しく聞こえるが、簡単に言えば相手のことを思いやったり気配りするということで、実は特別なことではない。考えやすくするためにモデル化して「メンタルモデル」と称しているのである。

メンタルモデルは人によって違うはず

個人的には今まで、メンタルモデルは1つの概念モデル(こう考えるに違いない)として考えていたが、実際の所、ものの理解の仕方は人によって違う。ということは、メンタルモデルも人によって違うのではないかと思い始めた。

もしそうであると仮定すると、メンタルモデルを想定する場合は、対象者の代表的なメンタルモデルのタイプを想定・把握して、どのタイプでも破綻のないようにする必要がありそうだ。あるメンタルモデルが必ず他のメンタルモデルの上位/下位互換である保証がないし、そうなっているとは思えないからだ。

「オペレーション・物語的思考」と「構造的・論理的思考」

デザインやテクニカルライティングのセオリーとしては「ユーザの頭の中によいメンタルモデルを形成できるように作れ」ということになっているが、そもそもメンタルモデルがどうやって形成されるのかを考えると、その人の経験や思考モデルに大きく依存しているような気がする。

例えば、世の中には「オペレーション・物語的思考」の人と「構造的・論理的思考」の人がいる。前者は「AをBでCするとDになる」といった具合に「操作のつながり・関連性」や「ストーリー」で理解しているが、後者は、「Dを得るにはその主成分であるAを原材料にするが、AをDにするにはCという処理をしなければならず、それには今のところBを使うのが最適である」といった具合に「成り立ち・依存関係」や「原理」で理解している。この場合、AからDを作る課程のメンタルモデルは前者と後者とでは違うのではないだろうか。

前者の思考では、Bがない場合はエラーとなりBを手に入れるまではDを得ることができないが、後者の思考ではBがない場合は処理Cの要件を満たす他のものを探してきてDを得ることができる。前者のメンタルモデルはフローチャート型、後者のメンタルモデルはスキーマ型、レイヤーモデル型と例えることもできそうだ。

一般的な家電やソフトウェアのマニュアルは、「手順」に代表されるように、概して前者を想定した説明になっているように思うが、後者の思考をする人にとっては手順から実際に何が行われるのかを類推するしかなく、これがストレスに感じることもある。かと言って、後者を想定した説明をしてしまうと前者にとっては余計な説明になったり理解されない恐れもある。

そもそもなぜ「メンタルモデル」を想定するのか

認知科学や心理学の研究者ならともかく、実務分野でこうしたメンタルモデルのタイプについて取り上げられているのをあまり目にしないのはなぜだろうか?

一つには、自分がただ目にしていないだけ、もう一つには、対象物によってユーザーと想定すべきメンタルモデルのタイプが限定されるという場合もあるだろうが、そうでない場合、自分のメンタルモデルに当てはめることで満足してしまい、それ以外のタイプについて考えていないということはないだろうか。あるいは「メンタルモデル」がバズワード化してはいないだろうか?

結局の所、必要なのは相手への思いやりや気配り、さらには相手の思考や行動を察知することであり、メンタルモデルは、それを考えやすくするための一つの「手段」にすぎないということをしっかり認識しておく必要があるのだと思う。

補足:「メンタルモデル・アプローチ」という方法

リスクコミュニケーションの分野では「メンタルモデル・アプローチ」という方法があるようで、この方法では想定対象者のメンタルモデルの洗い出しを行っている。20人程度にインタビューを行うことでほとんどの概念が出揃うという研究(Granger Morgan, 2001)があるようだ。

(goo blogより移植)

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