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FiiO 2019年春の新製品発表に見る、スマホとBluetoothとハイレゾ音楽プレイヤーの新時代?考

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FiiOがポータブルオーディオのカテゴリーを拡張する?

ポータブルオーディオの世界で、近年急成長している中国のメーカー「FiiO Electronics」が、去る2019年3月16日に中国で新製品発表会を行い、今年の春から夏にかけて発売予定の7機種もの新製品を発表し、一部で注目を集めています。

数年ほど前から、新製品発表会を開催するまでに大きくなったFiiOですが、今回の発表会は、これからのポータブルオーディオ市場の動向をウォッチする上でもとりわけ注目すべきものでした。
FiiOは昨年から新ラインナップの製品を矢継ぎ早にリリースしていたのですが、そうした製品と今回発表された新製品群とを合わせると、音楽をハイレゾプレイヤーで楽しむコアなファンから、スマートフォンやストリーミングサービスを中心に聴くライトユーザーまで、ほぼ全てのユーザー層にフォーカスした製品ラインナップを1社で提供するという、従来であればソニーなどが得意としていた分野を完全に先取りしたような形となりました。

ポータブルオーディオを取り巻く環境の変化と多様化

インターネット普及期の1990年代末に「MP3プレイヤー」が登場し、ソニーが1970年代末に「Walkman」で開拓したポータブル音楽プレイヤー市場は、それまでのカセットテープやCD、MDなどの物理メディアに代わって、フラッシュメモリーなどに保存された「音楽データ」を再生するタイプが主流になっていきました。そして2001年にAppleから「iPod」が登場すると一躍ブームになり、街中に白いイヤホンが溢れたのは記憶に新しいところでしょう。
しかし2010年に「iPhone」が登場して以降、スマートフォンの性能向上とデータ保存容量が増えるにつれ、スマートフォンで音楽を聴くというスタイルが一般ユーザーに定着してきました。

その一方で、当時のスマートフォンの保存容量や音質は十分でなく、膨大な音楽データを常に持ち歩きたい音楽ファンや、音質にこだわるオーディオファン、当時スマートフォンに乗り換える必要のなかったユーザーにとっても、「ポータブル音楽プレイヤー」は引き続き一定の需要が維持される形になりました。

ハイレゾデジタルオーディオプレイヤーの登場

MP3プレイヤーの登場以降、様々なメーカーからポータブルデジタルオーディオプレイヤーが発売されていますが、いずれもMP3, ATRAC3, AAC などの不可逆圧縮音源が中心で、CDの音質よりは劣るというのが常態化していました。
そうした中、CDを超える音質の今で言う「ハイレゾ音源」が2000年代半ば頃から一部で注目され始め、2005年頃から日本でもダウンロード販売サービスが始まるなどしていましたが、当時は対応するプレイヤーがほとんどなく、「デジタル音楽著作権保護(DRM)」の問題もあり普及するまでは至っていませんでした。

そしてDRMフリーが一般化して機が熟した2012年、MP3プレイヤーで名を馳せていた iriver(アイリバー)より、「Astell&Kern AK100」というハイレゾ音源が再生可能なポータブルプレイヤーが登場しました。


"Master Quality Sound" と銘打たれ、スタジオマスターと同じ 24bit/96kHz 品質の音源を持ち歩いて再生できるプレイヤーの登場は、大容量かつ高音質を求めていた音楽ファンやプロの注目を集め、それまで「MP3プレイヤー」で括られていたデジタル音楽プレイヤーに「ハイレゾデジタルオーディオプレイヤー(ハイレゾDAP)」という新しい製品カテゴリーが生まれました。

低価格ハイレゾDAPで価格の空白帯を埋めたFiiO

ハイレゾDAPは「高級ポータブルオーディオプレイヤー」と位置づけられ、様々なメーカーが参入してその音質やスペックを競い合い、価格も iPod を遥かに超える十数万円〜数十万円するものが普通となりました。
そのためハイレゾDAPは、従来のiPodやMP3プレイヤーユーザーの中でも特に音質を追求するオーディオファン層に受け入れられ、iPodの登場と共に市場を広げていた高級イヤホンや高級ヘッドホン、高級ポータブルヘッドホンアンプなどとの相乗効果もあり、高価格帯の「ポータブルオーディオ市場」が確固たるものとなりました。

ただ、従来のMP3プレイヤーとはあまりに価格差があり、2万円以上5万円以下には製品がほとんど存在しない、価格の空白帯ができていました。
そこに目をつけた…のかどうかわかりませんが、それまでポータブルヘッドホンアンプやUSB-DACなどを開発販売していた FiiO が、2万円台のハイレゾDAP「FiiO X3」を2013年に発売し、翌年にはその上位機種ながら5万円以下の「FiiO X5」を発売するなど、ハイレゾDAPの価格の空白帯を埋めていく形となりました。

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FiiOはさらに、2014年末に1万円台のハイレゾDAP「FiiO X1」を発売し、低価格帯のハイレゾDAPメーカーとしてポータブルオーディオ市場をより幅広い層にアピールし、ライトなユーザーもハイレゾDAPで高音質な音楽再生を楽しむことができるようになりました。
ちなみに、ソニーが2014年秋に発売したハイレゾウォークマンAシリーズ「NW-A16」が2万〜3万円台で、2015年頃には各価格帯に国内外の様々な製品が出揃い、メーカー毎に趣向を凝らした音質や機能などで機種を選んで楽しめる「ハイレゾDAP市場」がほぼ出来上がった感があります。

BluetoothレシーバーとハイレゾDAPの間を埋める「FiiO M5」の衝撃

さて、ここで初めの話題に戻って、今回のFiiOの発表で一体何が画期的だったかというと、これまでの「ポータブルオーディオ市場」や「ハイレゾDAP市場」の製品ではカバーしきれていなかった領域、いわばポータブルオーディオの「ミッシングリンク」となるような製品が登場した点です。

その製品が、Bluetoothレシーバー兼ハイレゾDAP「FiiO M5」です。

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この「M5」は発表会で当初、Bluetoothレシーバーシリーズの「BTR」を冠した型番「BTR5」として紹介されたり、Bluetooth 規格の認証を行う Bluetooth SIG にも「BTR5」として届出されており、もともと Bluetooth レシーバーとして開発されていた可能性もあります。

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出典: Bluetooth SIG Launch Studio - Listing Details

しかし、最終的にハイレゾDAP機能を搭載してハイレゾDAPシリーズの「M5」としてリリースされたのは、ポータブルオーディオを取り巻く事情の急速な変化の影響も見え隠れします。

音楽ストリーミング配信とハイレゾDAPの悩ましい関係

数年前からスマホでの利用を中心に着実にユーザーを増やし続けている、「Spotify」や「Apple Music」などの音楽ストリーミングサービス(サブスクリプション型サービス)は、世界的に見ると今やCDやダウンロード販売を大きく引き離し、音楽業界の売上の中で最もシェアを占めるようになっています。

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出典: IFPI Global Music Report 2019

ハイレゾDAPの世界でも、2018年頃から Android OS をベースとするWi-Fi搭載機種の一部で、Spotifyなどのストリーミング配信アプリが使える機能が続々と追加される動きが出てきています。FiiO自身も秋にリリースした「M9」というモデルが Spotify 等アプリのインストールに対応した他、2018年末に突如発表された小型軽量の低価格モデル「M6」では、リリース当初よりストリーミング配信対応が売りの一つとして挙げられていました。

ただ、DAPに搭載されている Android OS は各メーカー独自にカスタマイズされたものが多く、全般的に Android 7 以前のやや古いバージョンをベースとしているため、Apple Music や Google Play Music など、一部のストリーミング配信アプリは使用できなかったり、Google Play Store 経由でのインストールや更新ができなかったりするなど、若干制限があります。

そうなると、オーディオファンとまではいかない音楽ファンにとっては若干敷居が高くなり、そうでなくともシェアが伸びている Apple Music や Google Play Music 等は、スマートフォンでの再生が必須となります。
そこで一部のメーカーでは、スマートフォンとワイヤレスで接続できる高音質な「Bluetoothレシーバー」を発売し、昨今人気が出てきているようです。

高音質・多機能に進化した新世代「Bluetoothレシーバー」を更に次のステージに昇華する「FiiO M5」とそのライバル

Bluetoothレシーバー」は、今のようにBluetoothワイヤレスイヤホンやヘッドホンが当たり前になる以前、Bluetooth 普及初期に流行っていた時期がありますが、最近になって発売されている「Bluetoothレシーバー」はさらにそこから音質も機能性も格段に進化しており、そうした新世代の「Bluetoothレシーバー」は、Bluetoothワイヤレスイヤホン等と比べると次のようなメリットが挙げられます。

  • 従来からある高音質な有線イヤホンやヘッドホンがそのまま使える。
  • 多くのBluetooth内蔵イヤホン・ヘッドホンは、無線とオーディオが1つのチップになった部品を採用しているのに対し、無線とDACとヘッドホンアンプをそれぞれ独立して搭載することで、飛躍的に高音質化・高出力化を図ることができる。
  • Bluetoothでの音楽データの転送に使う圧縮方式(コーデック)に、劣化の少ない高音質を謳った最新のあらゆる方式(aptX, LDAC, HWA等)にマルチ対応しているものが多い。
  • Bluetooth接続の他に「USB DAC」機能を搭載し、パソコンなどの音声もUSB接続で高音質化する、ヘッドホンアンプとして使えるものも多い。

これらのメリットと、ハイレゾDAPならでのは単体で高音質な音楽を聴く機能に加え、さらにはそれをBluetoothワイヤレスイヤホンに送信する機能をも併せ持つのが「FiiO M5」ということになります。

ただ、こうした位置づけの製品は FiiO M5 が初めてではなく、先行するライバル機があります。

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別売りのリストバンドを使えば腕時計としても使えるほぼ正方形の形状は、ぱっと見た目には「iPod nano 第6世代」を彷彿とさせるものもありますが、現行機ではライバル社でもある Shanling からすでに発売されている「Shanling M0」とサイズも機能もターゲットも重なる部分が多く、FiiOとしてもおそらくかなり意識して開発を進めたのではないでしょうか。
また、サイズに着目してみると、実は「Apple Watch Series 4」の44mmタイプとほぼ同じ大きさ・重さという点も面白い所です。Apple Watch は単体でも内蔵メモリに音楽データを保存してBluetoothワイヤレスイヤホンで音楽を聴ける機能を持っているので、「ライフスタイル」という観点からはこうしたスマートウォッチや、プレイヤー内蔵型のワイヤレスイヤホンなども競合相手の一つと言えるかもしれません。

直接のライバル機であり「世界最小のハイレゾプレイヤー」として驚きを持って市場に受け入れられた「Shanling M0」は、発売からすでに1年経とうとしていますが、発売以来ファームウェアのアップデートによって機能追加や高性能化が今でも続いており、超小型ハイレゾプレイヤーの先陣を切った開拓者として、その利用シーンの開拓に一役買っている印象があります。

今回 FiiO は、「M5」にライフスタイル提案とコンセプトメッセージを込めて発表しましたが、Shanling M0 には当初なかった機能として、時計としての利用を想定した文字盤や、万歩計・活動量計の機能も持たせ、腕時計として使えるリストバンドをオプションで提供することも発表するなど、FiiO自身も実験的な試みとして市場を探っている感もあります。

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数万〜数十万円もの高級機と数千円の安価なMP3プレイヤーにほぼ2極化しているポータブル音楽プレイヤーの世界に、「FiiO M5」が「Shanling M0」と共にこれまでなかったカテゴリーとしてどのような展開を見せるのか、音楽を聴くスタイルの急速な変化とともにどう受け入れられるのか、大変気になる所です。

FiiOはポータブルオーディオをくまなく網羅したランナップを完成?

今回の発表は他にも様々な製品の発表がありましたが、個々の製品については今後様々なメディアに出てくると思いますので、ここでは冒頭で触れた、FiiOがポータブルオーディオ製品の上から下までの全ラインナップを、どこよりも先に1社で完結させれしまったのではないか?という点について見ていきたいと思います。

オーディオの世界は上を見ればキリがない世界で、ポータブルオーディオでも数十万円の製品がひしめいていますが、FiiOは今回の発表で、10万円以下のレンジで考えられうるほぼすべてのパターンの製品を発表したことになりそうです。全貌を図にまとめるとつぎのような感じです。

FiiO 新製品・現行製品ラインナップ (2019年3月発表時点)

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今回の発表では、ハイレゾDAPで言えばエントリークラスの「M5」とミドル〜ハイクラスの「M11」が新たに発表されましたが、これまでに発売されていた製品群、特に昨年よりモデルチェンジをした「Mシリーズ」でハイエンド機を除いて新ラインナップが完成し、以前から好調のBluetoothレシーバーのBTRシリーズと「M5」を中間にシームレスに繋がった形となっています。
実は、大手を含む他のメーカーの中でこれだけの様々なニーズに応じたラインナップを1社で揃えている所は他にありません。

特に、昨年末に突如発表され現在も品薄が続いている「FiiO M6」は、国内ではソニーWalkman A50 シリーズのほぼ独壇場となっていたエントリークラスのハイレゾDAPの刺客として、Walkman にはない Wi-Fi での音楽ストリーミング対応やスマホでの遠隔操作など、機能的には直接競合機が見当たらない製品で、他のメーカーを完全に置いてきぼりにしてしまった感があります。

FiiO BTR3 ポータブルBluetoothヘッドホンアンプ

FiiO BTR3 ポータブルBluetoothヘッドホンアンプ

その「M6」とこれまた人気のBluetoothレシーバー「FiiO BTR3」との間に「M5」が投入されることで、プレイヤーの選択肢がさらに増える形になります。また、「M5」が当初「BTR5」という開発名だったように、FiiO 自身も、「M5」と「M6」がそれぞれ Bluetooth の受信と送信のどちらにフォーカスしているかという点で比較した資料を用意していますが、これは外見だけではわからない部分でもあり、今後どのようなプロモーションが行われるのか楽しみな所でもあります。

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尚、ちょうどこのブログ記事を書いている途中に、これまで日本市場では販売されていなかった、Bluetooth レシーバー「BTR3」のさらに廉価機種「FiiO BTR1K」と「FiiO μBTR」の国内発売のアナウンスがあり、先程の図で示した機種が全機種日本でも展開される形となりました。

オーディオやポータブルオーディオの世界をいかに広げられるか?

このブログ記事を書いているのも過去のオーディオ関連の記事もそうですが、オーディオ機器を使って音楽を聴く楽しみや驚きをいかに多くの人々が体験しその魅力を感じてもらえるかが個人的な関心でもあり、オーディオ業界の活性化を図ることで自ら楽しみ続けるためにも必要なことなので、Twitter や Web でそのヒントとなりそうな情報をせっせと集めて発信しているわけですが(「Twitter ばかりやっててブログが全く更新されていないじゃないか!」というお叱りは甘んじて受けますw)、ポータブルオーディオ市場に関して言えば、ここ最近極まるところが極まりすぎてやや煮詰まり気味になっている雰囲気を感じていました。
そんな中での FiiO の今回の発表は、正直 Apple の新製品発表よりもワクワクしました(笑)

今月末には、国内最大のイベントの一つでもある「ヘッドフォン祭」が開催されることもあり、今月下旬から令和を迎えた連休明け〜初夏にかけて怒涛の新製品ラッシュが続くので、大いに期待しています。

オーディオ市場やポータブルオーディオ市場全体の変遷や現状、日本と海外で大きく異なる音楽業界の様相など、また別の機会に深掘して取り上げてみたいと思います。