日本以外の国ではメジャーでも、日本ではメジャーでないというものはいくつもありますが、音楽、特にダンスミュージックは、完全に世界から取り残されている感があります。
ここ10年以上、専ら海外の音楽しか聴いておらず、先日ふと YouTube で日本の「メジャー」とされる音楽をいくつか聴いてみたところ、ある種の「違和感」を感じました。
主観的な印象で言えば、
- 「音が平べったい」(解像度が低く立体感や個々の楽器の音の粒立ちが感じられない)
- 「音が薄くてナローレンジ」(ダイナミックレンジや周波数帯域が狭く感じる)
- 「ボーカルが楽器に埋もれがち」(解像度が低いため)
といったところ。
1980〜90年代から音質が全く進歩してないんじゃないかと思ってしまいます。もちろん全てがそうというわけではないですが。
例えば NE-YO の "Let Me Love You"。
それなりのヘッドホンで聴くと、音の解像度が高く、立体的で空間を感じる音です。
これが、日本の UNIVERSAL MUSIC JAPAN の手にかかると、なぜかこうなってしまいます。
なんでこんなに音質落ちるの!? というくらいダイナミックレンジも質感も低下して、いかにも J-POP 風の平べったい「ラジカセ」(死語?)のような音になってしまっています。
日本の音楽レーベルはひょっとしたら YouTube には「あえて音質劣化版をアップしている可能性」も無きにしもあらずですが、それにしてもこの差はひどいです。
このPVの音声データを解析してみても、この通り一目瞭然。
※スペクトル解析には「Sonic Visualiser」の "Melodic Range Spectrogram"、3Dレベル表示には「ImageJ」を使用。
高音質を謳ったオーディオ機器を手に入れても、日本のヒット曲を聴くとオーバースペックで、かえってこうした「アラ」の方が目立ってしまいます。
一昔前、日本の J-POP はスタジオの原音忠実なモニタースピーカーではなく、メインターゲットである若年層が使う安いラジカセの音で調度よく聴こえるように調整している、という話を聞いたことがありますが、まだその伝統が残っているのでしょうか。
海外音源の高音質化の背景にあるもの
この所、海外の音楽は、EDM(Electronic Dance Music)の要素がどんどんメジャーなミュージックシーンに採り入れられ、スタジオや腕のいいエンジニアに恵まれているのか、圧縮音声の YouTube でもかなり高音質なミュージックビデオが数多くあります。
その背景には、音楽文化の根付き方も一因にあるのではないかと思います。
ダンスミュージックが音楽文化に根付いている海外
例えば、ダンスミュージック。
少し前に、日本では「音楽にあわせて客が踊る店は違法?」というような話題がありましたが、欧米はもとより、アジアや隣の韓国でもダンスミュージックが一般的な音楽シーンに根付いており、毎週のようにどこかで大きなパーティーやフェスが開かれ、世界を巡回する大規模なEDMフェスが毎年のように開催されています。日本を除いて。
日本語版は見たことありませんが、海外では本屋にクラブDJやダンスミュージックの雑誌が普通に並んでいるようです。フェスやパーティーなどのイベント情報の量に圧倒されます。
※先日たまたまオランダとイギリスに行っていた友人に、買ってきてもらいました。Thx!
海外のサウンドは解像度が高い
特に、EDMやダンスミュージックは、クラブなど大音量の中でもそれぞれの音が埋没しないように、「解像度の高い音」作りが基本となっているように思います。「解像度の高い音」というのは、簡単にいえば個々の音が混ざることなく、空間上でそれぞれの音像の位置や大きさが明確に感じられる音です。
先に述べたように、EU圏を中心に、海外ではもともとダンスミュージック文化が根付いているので、EDMも自然に受け入れられ、DJやサウンドクリエイターもまたそうした解像度の高い音作りの腕に磨きがかかり、POPS や ROCK であっても、高解像度の音を作り出せる環境の下地があるのではないかと推察されます。
例えば、イギリスのアイドル(?)グループ「One Direction」もPVの音質が日本のそれとは比べ物になりません。
日本には本当にダンスミュージックは根付かないのか?
世界中の民族音楽にもダンスがあるように、ダンスミュージックは人間の本能的欲求に応えるような側面があります。
日本でも、保育園で園児にDJがダンスミュージックを聴かせたところ、自然に踊りだし、夜のクラブと同じ光景が展開されたという話題がありました。
日本でも小室哲哉氏のダンスミュージックが流行った時期がありましたが、今や K-POP が完全に海外と同じEDMベースの曲でヒットを飛ばしているのに対し、J-POP は今でも「古き良き(?) J-POP」のままあまり変わっておらず、まるで日本だけが海外から完全に取り残されているような状況になっています。
「ダンスミュージック」というカテゴリーはあくまで「後付け」です。どんな音楽でも踊りたくなる音楽は踊ってしまえばよいわけで、「踊りたくなるような音楽」がダンスミュージックだと言ってもよいでしょう。
上のリンク先記事でも語られていますが、潜在的には日本でも需要があるであろうものの、ダンスミュージックやクラブに対する先入観や時代錯誤な風営法などが足かせとなって、なかなか一大ムーブメントに至らしめる決定打がない状態がしばらくは続くのでしょう。
風営法の議論にしても、「音楽に合わせて自然に体が動く=踊る」ということ対して「享楽的」等、何か恣意的に意味を持たせたがっているようにも思えてなりません。
世界中で自由に踊りまくっている中、日本だけはどうも振付の決まった型通りの「踊り」が「ダンス」と認識されているような節を感じます。世界共通言語としてのダンスが日本でも自然に受け入れられることを願ってやみません。それが日本の音楽シーン全体を盛り上げることは間違いないであろうと考えています。
日本での変化の兆し
日本にももちろんクラブやダンスミュージック文化はありますし、日本のメジャーな音楽シーンでも、EDM的な要素がないわけでもありません。例えば、自らのユニット「capsule」の他「Perfume」や「きゃりーぱみゅぱみゅ」などのサウンドプロデュースを手がける中田ヤスタカ氏。
もともとクラブDJでもあるためか、クラブシーンで磨かれた音に対する感覚が作品に現れているように思います。
中田ヤスタカ氏の音作り
Perfume「レーザービーム」
音声スペクトルの比較
また、最近の明るい話題としては、マイアミ発の世界的な大規模フェスである「ULTRA MUSIC FESTIVAL」がついに今年2014年9月、日本でも開催されることが挙げられます。
ただ、これも出演DJがなかなか発表されず、同日に海外の別の場所で開催される他のフェスに名立たるDJの出演が決定していたりと、不穏な空気も流れ始めてイマイチ話題として盛り上がっていないのが気になる所です。
ある意味、このイベントの成否が今後の日本の音楽の方向性を決定づける可能性を秘めている感もあり、注目したい所です。
海外のダンスミュージックはこんな感じ
海外のダンスミュージックPVは、どれも YouTube の音声スペックをフルに使い切っている感があります。日本でもこういうサウンドが巷で聴ける日は果たしてくるんでしょうか...
- Pitbull - International Love ft. Chris Brown
- Michael Mind Project feat. Bobby Anthony & Rosette - Rio de Janeiro
- Avicii - Wake Me Up
海外でのEDMの盛り上がり具合や、韓国に先を越されていることがよくわかります。